ここのところ
中学校進路指導主任 の 視点 で
期末試験 や ESAT-J のことを
中心にして書いてきた
から
今どきの高校の授業って
どんな感じなのだろう?
できれば見学したいな!
と 急に 思いついて
あちこちの
高校
の ホームページを開いて
学校見学会👀や 授業公開 👀
に 参加可能なのか 調べてみた

ところが既に終了していたり、開催前であっても「受験生本人とその保護者に限る」との条件付きだったり、なかなか見つからない
。それでも20校ほど探した末、予約不要で見学者の制限もなく、ボクの予定が空いている日と合致する学校を発見した。よし、ここへ行こう
。それが・・・
創立88年目の 都立 西 高等学校 だ。

学校HPより: https://www.metro.ed.jp/nishi-h/
都立高校の中で7校ある *進学指導重点校 の1つ。カリキュラム/進路指導ともに実にユニークで、今春の大学合格実績は東京大学に19名、京都大学に20名という都内でも有数の進学校である。この数字だけを見ても、生徒と教員の双方が高い目的意識をもって日々の活動に臨んでいるとの評判が、単なる噂や見掛け倒しではないことを証明している。
(*日比谷・西・国立・戸山・青山・立川・八王子東)
電車の最寄り駅は京王・井の頭線の久我山。そこから北東の方向へ歩いていくと10分少々で校舎にたどり着く
。
道順を調べる際は、どの高校の場合も ホームページ のメニュー欄をタップして「アクセス」を選ぶと、地図や Google Map が示されるのが一般的。
ところが西高のホームページには、おそらく美術部あたりの生徒による手描きのエリアマップも貼り付けられていた。しかも丁寧でわかりやすい、プロ級の腕前のもの
。
(案の定、来校者配布用の「令和8年度入学生用スクールガイド」には、72期生Yさんの作品であると明記されていた)

「豊かな人間性の育成」や「自主・自律の精神の養成」を教育目標に掲げる学校はかなりの数にのぼる中、西高ではそれが理想だけでなく実践されていることが、こんなところからも伝わってくる
。

さて、Yさんのおかげで無事に校舎にたどり着いたボク。腕時計に目をやると、2本の針のうちの長いほうは「12」の数字の上に見事に重なり、短いほうも「11」の数字のド真ん中を指していた。
11時ジャスト。いいぞ、3時間目の「情報Ⅰ」とその次の「論理・表現Ⅰ」(英語)を予定どおりに参観できる
。
これら2つの科目に狙いを定めた理由は2つ。
1 英語はボクの専門教科。苦手とされているアウトプットの力をどう鍛えているのか見聞したかったから
2 未来のデジタル社会を担う若者たちに、情報技術やデータ活用をどう教えているのか確認したかったから
英語 と 情報。ヒト・モノ・カネのボーダーレス化がますます進む現代社会を生きていく若者たちにとって必要不可欠なツールこそ、英語と情報なのだ
。
ボクが教えてきた中学校からは例年1~3名ほどの生徒が西高に進学し、昨年度の卒業生のうち1名【仮名:S子】もお世話になっている。S子の学級担任だったボクは彼女に英語も教えたし、進路指導もしたし、バドミントンも助言したし、時間内に給食を食べ終える方法も伝えたし、上履きを忘れてスリッパを用意したことさえ幾度もあった
。

中学を卒業して8ヶ月、そんな教え子がどんな高校生に成長しているのか知りたくて、彼女の教室も覗いておきたいと考えていた。そうしたら偶然にも、3時間目の「情報Ⅰ」も次の「論理・表現Ⅰ」もS子のクラスの授業だった
まさかこんな悪戯が仕組まれていたなんて。 英語の神さまの仕業なのかな
。

「情報Ⅰ」の授業はPC室で行なわれていた。
ボクが室内に入ったとき、生徒たちはすでにパソコン
の表計算ソフトに必要データを打ち込み終えて、先生の話に耳を傾けているところだった。
単元は「データサイエンスと問題解決」で、この日のテーマは『回帰分析』。先生からは「10000個のデータを excel を用いながら回帰分析し、決定係数を基に考察して自分の意見を述べる」との課題が示されていた。
ボクには全く意味不明の内容。それなのに、高校生たちは黙々と作業を進め、疑問が出てきたらすぐに先生を呼んで問題解決を図ろうと努めた。
S子も隣の席の生徒と協力しながらキーボードに新たなデータを打ち込んでいた。すぐにボクの存在に気がついたものの、動揺するような素振りも見せず、再びパソコンと “にらめっこ” を続けた。
机間巡視の途中でボクの近くまでやってきた先生にひと声掛けてから、ボクはS子の席に近づいていった。
ボク「よっ、授業を観に来たよ」
S子「うっ、あ、ありがとうございます」
ボク「難しいことやってるねェ」
S子「毎日、しがみつくだけで大変です」
凄いなァ。時代は変わったなァ。回帰分析? 決定係数?? じぇ~んじぇんついていけましぇ~ん、ボク・・・
。
ということで「情報Ⅰ」の話はこれにて終了
。

さて、次はいよいよ英語。ワクワク・・・。

授業の場所は “会議室”。本来の自分たちの教室とこの会議室を併用しながら、「1クラス2展開」の少人数授業を行なっているようだ。始業を告げるチャイムが鳴ったことを確認してからボクは室内に入っていった
。
ホワイトボードの前に立っていたのは女性の外国人講師が1人だけだった。生徒たちは長テーブルをはさんで5人ずつが向かい合って座り、それが2列。合計20人。ボクは生徒たちからは距離を保って、後方の席についた。

ネイティブの先生は、ナチュラルスピードの英語で生徒に簡単に挨拶をした。発音と抑揚の様子から察するに、おそらく“Europe Origin(欧州出身者)” ではなかろうか。
やがて彼女の視線がボクに一瞬向けられたとき、あることに気がついた。
「おやっ、“ノーランズ” に似てるなァ・・・」
ボクが中学3年生だった1980年にイギリスをはじめ欧州でで大ヒットし、日本でもオリコン洋楽シングルチャート年間1位に輝いた名曲『ダンシング・シスター』で一躍人気となったのが “ノーランズ”。そのボーカルをつとめたバーニー・ノーラン(Bernie Nolan)に瓜二つだったのだ
。

えーと、話を授業に戻そう。もちろんバーニーは日本語を一切話さない。完全な “All English” の授業である。
長机の右側に座る生徒にはA、対峙する生徒にはB、つまり記載内容の異なる紙片を1枚ずつ配ったバーニーは、ホワイトボードに次のように書き終えるとゆっくりとした口調で説明を始めた。
【※ 大きなホワイトボードに書いたのはこれだけ⬇】

=== 説 明 ===
あなたは紙片に書かれた内容に従って、自分の意見とその理由を述べます【=1】。次に相手が反論します【=2】。それに対してあなたが再反論を行ないます【=3】。以上で4分。
今度は攻守交代。相手が意見と理由を述べ【=1】、あなたが反論します【=2】。最後は相手の再反論【=3】。4分。
この8分間が1セットで、ディベートの相手を変えて3セットやるのが今日の取組です。これから配るワークシートにお互いの主張・持論を記録してください
。
=== 終 了 ===
参考として、バーニーが配ったAとBの紙片の記載内容はこれ
。【※実際には日本語訳はありません】
A AFFIRMATIVE OPINION
I agree that Japan needs to regulate fishing more because regulations will reduce bycatch and protect ocean animals.
【肯定的意見:日本は漁業規制を強化すべきという意見に賛成です。規制は混獲を減らし、海洋生物の保護につながるからです】
B NEGATIVE OPINION
I disagree that Japan needs to regulate fishing more because more regulations will reduce fishermen’s income and jobs.
【否定的意見:日本は漁業規制を強化すべきとの意見に反対です。規制の強化は漁師たちの収入と雇用の減少につながるからです】
どうですか。この意見の裏側にある環境問題の知識が必要であるばかりでなく、それを英語で考え、相手の反論を予測し、論破する方法まで思案しなくてはならない。極めて高度な技術が求められる課題なのだ
。
“4分×2名×3セット=24分” という時間は瞬く間に過ぎていった。会話力・表現力・交渉力それぞれの力量に個人差はあったものの、防戦一方の生徒は誰もいなかった。
「ガンバッてるな、高校生!」
ボクは思わず、心の中で大声を発した。
相手の目をしっかりと見ながら立派に主張していたS子の姿勢も素晴らしかった。1年前はしょっちゅう上履きを忘れていた子が、よくぞここまで成長したものだ。
そんなS子の横顔を見ていて、ハンカチを持っていなかったボクは、溢れ出る涙
と鼻水
を仕方なく上着
の袖口でぬぐい続けないといけなかったから、授業終了直前のボクのジャケットの両袖はもうグショグショ状態に・・・
。
バーニーやS子たちに気付かれぬよう、ボクの席の背後のカーテンに手を伸ばして
と
をこっそりなすり付けている最中に終了のチャイムが鳴った
。

S子は50分しかない昼食&休憩時間をゆっくり過ごすこともなく、白衣に袖を通しながら廊下を駆け抜けて化学実験室に飛び込むと、他の生徒たちも加わって、前回の授業でやり残した実験の続きに精を出した
。
おいおい、高校生って昼休みがないんかい⁉
その後、ようやく10分間だけ時間を作ってくれたS子は、ボクを中庭のベンチへと連れ出した。
S子「今日はわざわざありがとうございました」
ボク「たまたま時間調整がうまくいったのさ」
S子「いきなり来たんでビックリです」
ボク「事前に言ったら『イヤだ~絶対来ないで~”』ってなるのはわかってるからね」
S子「間違いなく言ってましたね」
ボク「それな」
S子「そう言っても来ちゃうのが、オガT」
ボク「それな」
S子「うちの学校、制服ないじゃないですか」
ボク「知ってるよ。あなたのクラスも3~4人だけ、“なんちゃって制服” の子がいたね」
S子「私も今日、制服の格好をしてるんですけど、この上着は中学校の制服なんですよ、ほら」
ボク「ホントだ、●中のエンブレムじゃん」
S子「この上着を着てきたのは今日が初めてなんですよ。そんなときにオガTが来るなんて、すごい偶然!」
ボク「そうなんだね。それも英語の神さまの仕業だな。ま、とにかく、あなたが元気でいるのがわかって安心したよ。次またいつ会えるかわからんが、高校時代なんてあっという間に終わっちゃうから、勉強も私生活もガンバりなさいね」
S子「は~い、ガンバりま~す!」
こうして約束の10分間は過ぎ、S子は小さなおにぎり
を1つだけ飲み込むように慌てて喉の奥に押し込むと、午後の授業に備えるため、校舎の中へと消えていった
。
【 総 括 】
約2時間に及んだ『高校授業見学』を振り返って
得られた成果を2つ 列挙しておきたい。
1つめは、「現役中学校教員たちも、もっともっと高校へ赴いて授業を観るべきだ」という努力義務の発見。
中学校にいると “小中連携”という言葉は頻繁に耳にするものの、高校側との関わりは高校入試を前提としたものに限定されてしまうことがほとんど。
中学の教員が高校の授業内容を知れば、自分自身の授業計画や授業改善に役立つことは間違いないし、それは自動的に有効な進路指導に直結することにもなる
。
2つめは、「間違いなくボクは世界一幸せな中学校教師だ」という事実を再認識した喜び。
在学中の3年間は親よりも長い時間を中学生たちと共に過ごす。『中学校卒業式』という神聖な瞬間を共に喜び合える。その後の彼らの人生にさえも関わりをもつことができる。
そんな仕事、 “中学校教師” の他には ない!

ステキな卒業生を求めて東京中を巡る
ぶっつけ本番の“突撃”高校訪問番組!
オガTの卒業生に乾杯
次はキミの高校かも ⁉
