牛首村、映画公開は2022年2月18日です。


〈小説版〉も発売されましたが、映画・小説どちらも心霊スポットが関わってきます。
 だから、ここでひとつ心霊スポットの話でも。


 牛首村を執筆するために、心霊スポットの取材・調査をしていました。
「小説なのに、心霊スポットの取材や調査が必要か?」
 こんな風に問われれば、必要です、と答えます。
 その場でしか感じられない空気、情報を得るために、取材と調査は必須なのです。

 ただ、個人的には、プライベートでスポットへ行くことをお勧めしません。
 荒れ果てた場所は怪我をしたり、命を落としたりする可能性が高いですし、事件や事故に巻き込まれないとも言い切れません。
 危険に近付かない。それが肝要です。それにスポット周辺に住む人や、関係者の皆様に迷惑を掛けないことにも繋がりますので。

 しかし、噂になるほどの心霊スポットよりも、何の気になしに訪れたり、帰路の途中で迷い込んだ場所の方が、困ったことが多々あります。
 例えば、真夜中の取材帰りのことです。
 レンタカーのカーナビがおかしくなり、道に迷ったことがあります。
 山道から小さな街へ降りようとした途中でした。
 知らない道なのでナビを頼りにしていたのですが、結果どんどん細い道へ這入り込みます。明らかに目的地方面を示していません。
 道の脇に停車できそうなスペースを見つけたので、そこへ停め、スマートフォンのマップアプリを開きますが正常に作動していないのか、GPSを拾わないのです。
 非常に困り果てました。
 どうにかして現在地を調べられないかとヘッドライトを頼りに周囲を見ても、竹林とちょっとした小屋くらいしかありません。小屋はプレハブで、壁がトタンで補修されていました。周囲の荒れ方から、あまり人が使った様子がありません。
 もう一度車とスマートフォンを確かめると、ユーターンせよ、という指示になりました。これ幸いとハンドルを数度切り直している最中、突然カーナビが音声を発します。
〈目的地に つきました〉
 やはりナビがおかしくなっているようです。
 こうなると野生の勘で進むしかありません。ナビを切って思うがままに車を走らせると、目的地の街へ出ました。
 カーナビに自分の勘が勝った瞬間です。
 竹林と小屋の近くは、後でナビの履歴とか調べたら〈とある事件現場〉のすぐ近くでした。

 また別の話。
 日が暮れるくらいの時間帯、少し離れた場所に止めたレンタカーを目指して歩いていました。住宅街で車一台がやっと通れるようなアスファルトの道です。
 スマートフォンに届いた連絡へ返信しつつ進んでいると、背後から足音がしました。
 振り返っても誰もいません。
 ははあ、これは周囲の壁なんかに自分の足音が反響しているんだなと判断しました。
 試しに、道路を何度か踏んでみましたが、微かにしか響きません。
 それにその日の自分はスニーカーで、聞こえたのは硬いヒールの音でした。
 気のせいかと再び歩き出すと、また足音が後ろからついて来ます。
 やはりヒールの音です。
 ふと、以前、他の取材をしていたときのことを思い出しました。
 そこでも姿なきヒールの音に追いかけられたことがあったのです。
 ふと頭に浮かびます。
 これは、べとべとさんではないか、と。
 べとべとさんとは人の後ろを付いてくる足音の妖怪です。
 悪さはしませんが、気になるなら道の脇によって「べとべとさん、先へお越し」と言えば消える相手だと言います。
 しかしここで少し悩みました。
 道の脇へ寄るのは、なんとなーく負けた気がするからです。
 だから道を塞ぐようにしてから振り返り、「先へお越しやすう!(お越しできるならなぁ!)」と言う感じで口にしました。
 何も起こりません。
 ああ、これじゃただ道端で独り言を漏らしている人だよ、とバツが悪くなり周囲を見回します。
 そして、思わず呻いてしまいました。
 すぐ横にある家の二階、その窓際に立つ女性と目が合ってしまったのです。
 大人の女性でしたが、薄暗い上、窓越しなので顔だちはイマイチよく分かりません。
 多分私の「先へお越しやすぅ!」を聞き、訝しんで外の様子を窺っているのでしょう。
 日本人的愛想笑いを浮かべながら会釈し、私はそこを逃げるように後にしました。
 足音は追いかけてきませんでした。
 きっと「こんなアホは追い越す価値、ありまへんわ」と呆れて何処かへ去って行ったのでしょう。

 ……あれ? 書いていたら何だか困ったことと言うより、駄目な人間の話になってきたような気が致します。
 ただ、ひとつ言うならば〈予想もしない場所に、とんでもない場所が多くある〉ことは確かです。詳細は今のところ書きません。更に調査してからがよいでしょうから。


 心霊スポットも出てくる 小説版「牛首村」は書店様、ネット書店様で発売中です。

 

 

 是非、お買い求め頂け下さいませ。