映画「牛首村」の舞台、富山県には坪野鉱泉という廃ホテルがあります。


 正式名称は〈坪野ホテル〉なのですが、坪野鉱泉のほうが通りが良いと思います。
 映画の紹介などで「坪野鉱泉」の名前が出ているので、すでにご存じの方もいらっしゃることと存じますし、有名な心霊スポットなので、ここでは詳細な説明をしません。

 だから、今回は「何故、観光用ホテルや建築物が廃墟になってしまうのか?」などをテーマにお送り致します。

 これまで、取材で廃墟を訪れたことは数多くあります。
 ただ、所有者が存在する場所は基本的に入ってはいけません。
 時に、警備や警邏のコースになっている場所も存在します。
 そんなときどうするか?
 ひとつは敷地外から観察すること。
 もうひとつは、周辺の地図を参照しつつ、現地の方々に訊ねることです。
 これで内部に入らなくても、概要をうかがい知ることは出来ます。
 が、やはり心霊スポットや廃墟を訪ねることは絶対に止めた方がよいです。
 メリットよりデメリットの方が多いですから。
 大体、内部へ侵入したところで、そこで大怪我をしても結果的に「自己責任」のひと言で終わってしまいますしね。廃墟なんて、転んで地面から飛び出していた鉄の棒が掌を貫通したり、高所から落下して腰骨を折ったり、壁から飛び出した資材で眼球を突き刺したり、と危険が一杯ですよ。
 それに待ち受ける〈暴走族やヤンキー、ヤカラ、不法侵入者〉から襲われることも多いですし。こちらは十数名だから多勢に無勢だ! とか、こちらには腕っ節の強い人間がいるから返り討ちだ! とか、いろいろあると思います。が、そんなのは不意打ちには通じません。こういうのは、襲撃する側が有利なのですから。
「じゃあ、先手必勝で相手に襲いかかればいいんじゃね?」
 って思う向きもございますでしょうが、お勧めしません。
 何故なら、それは犯罪だからです。
 兎に角、〈君子危うきに近寄らず〉。これが肝要です。

 ただ、こういう取材で分かってくるのは、巷の噂が如何に錯綜しているか、です。
 ○○で最も怖い、最凶の、行けば呪われる。
 そんな文言が踊る話を耳にし、現地を訪れてみれば違和感が漂うことがよくあります。
 調べていくと複数の情報が混在している。或いはそんな事実はない、など、一筋縄ではいきません。
 驚いたのは、何でもない場所が心霊スポットとされた場所があったことでしょう。
 また「ここは呪われた場所である」と名言された某所があります。
 呪いの証左であると、いろいろな情報がまことしやかに語られていました。
 ところが、調査の結果は〈事実無根〉だったのです。
 そもそも、呪いの証拠だとされていたこと、そこから間違えており、非常に困惑したことを思い出します。
 それでも、何も知らない方々にとってそこは〈呪われた地〉なのです。現在も。

 要するに〈誰かが面白おかしく噂を流布させた結果、そこがスポット化してしまう〉ことも多くある訳ですね。
 逆に言えば〈その誰かが広めた噂を多数の人が信じて集まれば、そこがスポットにされてしまう〉とも言えます。
 もちろん、客観的な視点で調べていき、何事かがあるのだと確信を得た廃墟や建物も多いです。そういった場所は、無名のままひっそりとそこに在り続けます。理由は簡単で、気軽に手を出せない状態になっているからなのです。取り壊そうとしても物理的に邪魔が入ったり、関係者が連続死したりして、どうしようもない。だから、放置する他ない、と。
 逆に有名になったスポットの方が取り壊されていきます。
 土地の持ち主が余計なトラブルを避けるためです。
 余計なトラブルとは何か?
 それは、不法侵入者による事故や犯罪、不法占拠して住み着く輩が起こす火事や事件、死に場所を求めた人間による自死などです。
 それに関連して起こるトラブルの責任は、土地や建物の持ち主へ向かいます。
 そうならないように、先に手を打つのです。
 もちろん取り壊しにはお金が掛かりますから、金銭的な面でどうしようもない廃墟も多数ありますが、そんな場所はだいたい立ち入り禁止やそれに類似の対処を行っています。或いは、所有者がどうにかして手放そうとするパターンも散見されますよね。
 どちらせよ、廃墟は不良債権でありますし、トラブルの元です。
 どうにかしたいと考えるのが当たり前なのでしょう。
 ※観光庁が自治体や事業者に対し、廃墟撤去費用の補助金制度を〈条件付き〉で始めました。良いことだと思います。

 しかし、どうして観光用ホテルや観光向け建物が廃墟と化すのでしょうか?
 理由は幾つかありますが、一番大きいのが「計画側が商売を先読みできず、見込み違いとなり経営悪化」の末、どうしようもなくなり廃業したからです。
 バブルの時、いやそれ以外のときでも往々にして〈ここに、こういうホテル(施設)を建てれば、大もうけできる〉と見込んでしまう人々がいます。
 ところが世界的不況や人の好みの変遷、道路状況の変化で生じる〈見込み違い〉が起こり、あっという間に赤字へ転落、そのまま廃業になります。
 更地にしようにも予算がなく、放置するほかない、と逃げる輩もいますね。
 こんな風に放置されると、いつしか暴走族や若者の溜まり場になり、トラブルが起こります。と同時に廃墟・心霊スポットマニアがやって来て、様々な情報や噂が流されるのです。
 この情報に「廃墟となったのは経営悪化のため」が含まれても、そこに「経営者がここで自殺した」「経営者が家族を皆殺しにしてここへ埋めた」――などなど根拠のない尾ひれが付くことも数多くあります。
 いろいろなことが複合した結果、有名心霊スポットが出来上がるのです。

 因みに、仕事で真夜中のスポットを歩き回ったり、待機したことがあります。
 そんなとき、訪れる若者やヤンキーの皆様に出会うと、こちらを見て声を上げるのです。当たり前の反応でしょう。

 スポットの真っ暗闇にボンヤリと佇む人間がいれば、そりゃびっくりします。

 生きてる人ですよー、無害ですよーと話しかけると誤解は解けますので問題はありません。
 仲良くなって「どうしてここへ来たのか」を訊ねると、それぞれの口調で「ここが心霊スポットだから、来た」になるのです。
 逆に知らなかった情報を得ることもありますが、後に調べると事実無根であったり、隠された真実だったりと両極端なこともしばしばです。
 隠された真実は、少々キツいものもあります。
 それに、予想外の真実と意外な怪異の噂がリンクして、とんでもなく(地域的にも、時代的にも)広範囲にわたって広がっていく怪異譚になっていくことも少なくありません。
 多分、世に流れている噂は、誰かがこの真実から目を逸らすためにわざと流しているんじゃないかと妄想してしまうほどです。

 もう一度言います。
 みなさまは、絶対に廃ホテルや廃墟へ行ってはいけません。
 行かなければ、物理的危険も、知らなくて良い何かを知ることもありませんから。
 後悔は先に立ちません。
 くれぐれも、危険に近寄ることなきよう。

                                久田樹生事務所Musth 久田樹生


2022年1月20日 「牛首村〈小説版〉」発売です。

 

 


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