へえ。
 はい、などの返事を崩した発音。
【へえ、おばんでがんす】など。

 さて。
 へえ。
 時代劇など見ていると、よくこんな台詞があります。
「へえ。そうでげすなぁ……」みたいな。
 ほっかむりをしたボテフリが、同心に何かを聞かれて、みたいなシーンで使われるパターンなど、いろいろな場面で出てきます。
 はい、という返事を変化させたもので、肯定や返事の頭につけることが多いですね。

 でも、実は鹿児島県ではこの「へえ」が三つの意味を持ちます。

「へえ」 → はい
「へえ」 → 灰(桜島の火山から噴出する火山灰以外にも。煙草の灰など含む)
「へえ」 → 蠅

 全部同じ! 文字で書いただけでは分かりませんね。
 これらはイントネーションで使い分けますが、言葉の前後から解読可能です。

「へえ。あそこのはアタイが家じゃっど(はい。あそこに(あるの)は、わたしの家です」
「キョは、わっぜ、へえが降っど(今日は、たくさん灰が降るぞ)」
「早よ食べんと、へえがたかっど(早く食べないと、蠅がたかるよ)」
 こんな感じ
 へー! って唸ったアナタ。そこはへえ、でお願いしたいッ!

 でもね、現地取材すると分かりますが、「へえ」と言いません。
 文字で表現すると「へ」です。

「へ」 → はい
「へ」 → 灰(桜島の火山から噴出する火山灰以外にも。煙草の灰など含む)
「へ」 → 蠅

「へ。あそこのはアタイが家じゃっど(はい。あそこに(あるの)は、わたしの家です」
「キョは、わっぜ、へが降っど(今日は、たくさん灰が降るぞ)」
「早よ食べんと、へがたかっど(早く食べないと、蠅がたかるよ)」

 うむ。これだと現地のイメージです。
〈南の鬼談 九州四県怪奇巡霊〉の取材で鹿児島県を訪れましたが、そのときに実際に耳にしてのはこんな感じなんですよ。
 ただ、問題なのは同じ県内でも地域で微妙に言葉が違うこと。
 そんなときは話の前後から解読し、更に確認することで事なきを得ます。
 ただし、これって鹿児島県だけの話ではありません。
 東北でも北陸でも関東でも関西でもどこでも同じです。
 一例としては、県北・県南でベースになっている方言が違うことも多々あります。
 特に県境だとそれぞれの言葉がミキシングされていて、独特の変化を起こしていますから。
 だから出来る限り、現地で直に耳にした方がよいのです。
 しかし、言葉だけではまだ足りなくて。
 土地土地の地形や雰囲気など、言葉にプラスして体感することで更に理解度が深まります。
 あと、これらに加えて、伝説・伝承など調べていくともっと楽しくなりますよ?

 でもこうして取材やらで飛び回っていて思います。
 日本全国の各地域は「違いもあれば共通項も沢山見られる」、と。
 一例を挙げると、岩手県と鹿児島県。全く違う部分もあれば、似ているところもあるわけで。
 雪が降るのと火山灰が降るのは違いますが、ほら、河童さん伝承とか。
 でも、東北と九州の河童さんは、生物学的に見たとき、近縁種に見せつつ実はちょっと違うかも知れない……。
 おっと。河童さんを語ると長くなるので一旦話を戻します。
 取材をしていて個人的に感じたことを言うと……。
「日本全国、全ての地域それぞれが素晴らしく、そして特別であり、また、それぞれの地域で共通する点こそが日本人の特性と文化の根本を表している」
 極論ですが、そう思います。
 もっと拡大すると、世界中同じ事が言えると思うのです。

 鹿児島県の「へえ」のような言葉の情報から、世界を考えることまで広げてしまいました。
 出来れば、皆様が住んでいる地域にある「鹿児島県のへえのような言葉の文化」があれば、是非教えて頂けたら。
 そんな図々しいお願いで今回は締め。イエス!