念のため。

 いっそう注意して、や、万が一に備えて、などの念を押すとき使う語句。

 

 ってことで念のために書いておきます。

 久田樹生、ギターは一切弾けません!(どや顔)

 あ。ギターとかケーブルとか、最低限の機材はあります。埃を被ってますけれども。

 

 何故ギターが弾けないのか。

 私、ギターやらアンプを前に、正座をして考えましたよ。

「六本も弦があるのが悪い」

「その六本の弦全部、それぞれ音が違うのが覚えにくくて悪い」

「音程を取るための位置に正しく指を持って行くのが難しいのが悪い」

「ギターに訳の分からないスイッチやノブがあるのが悪い」

「機材ごとに覚えることがあるのが悪い」

「初心者はこれを弾けばいいんだヨ、って曲ですら難しいのが悪い」

 ……他、諸々。

 そもそも楽器を演奏するというのは初心者に優しくないですよネ。

 やれ初期投資して機材を買って来いだの、教則本は必須だの、子供も大人もきちんとレッスンを受けた方が、上達が早いだの。

 どれもこれも正論過ぎてぐうの音も出ないッ! ちちぃ。

 私のように「ネットの動画見ればオールオッケー。それでいいんじゃね?」的にクソ舐めた態度で楽器を学ぼうとしたのが愚の骨頂ッ! 浅はかッ! 無駄無駄無駄無駄ッ!

 

 そんでね。

 ギターとかさァ、持ってさァ、友人知人のスタジオ練習とか混ざるとさァ、よく「ブルースセッションしよー」とか言われるんですよ。

 わたし、一欠片も弾けないのに!

「スリーコードで、キーはぁ」なんて最初の決めごとを教えられても脳の表面を上滑りしていくわけ。すりーこーど? きぃ? ブルース・リーの親戚? カギ? パードゥン? ってもんですよ。マジでわっかんね。

 そんなときにね。ちょー便利なワザがあるの、知ってます? 奥さん?

 それはね、高等テク。〈ウソ弾き〉。

 ギターのボリュームをゼロにして、小難しい顔をしつつ両手を動かして、偶に天を仰いで苦しそうな顔をするの。

 そしたらね、なんか弾いている風に見えるわけ。ふふふふ。

 自分のソロが回ってきたどうするの? って?

 そりゃーほら。ギターを掻き毟るようにしてノイズを出します。それこそ陶酔したような表病で。

 その後、「オメーらのノリがワリーから、もう付き合ってられまへんわッ!」っつって、ギターをぶん投げてスタジオを出ます。

 いやあ、ロックだわ。

 

 スタジオで思い出した。

 某所のリハーサルスタジオで「先に入ってドラム調整していたら、ドアが開いて誰か入ってきたので、顔を上げた。でも、誰もいないでやんの」っていう話を聞かされた私。

 調べてみると、そこのスタジオいろいろ起こっていました。

 リハーサルスタジオだろうが、レコーディングスタジオだろうが、音楽の現場にはこういう話がゴロゴロありますよね。

 

 おっと閑話休題。

 そもそもね。私、アホみたいに手が小さいんですよ。指も非常に短いし。

 だからギターは出来るだけ小さくて棹が短いのを選んだんですけれども、それでもまーったく届かないの。

 ほら、バック・トゥ・ザ・フューチャー1でマイケル・J・フォックスがダンスパーティで弾いていた曲があるでしょ?

「Johnny B. Goode」。

これ、とある人からね「これはギターを初めてすぐに弾けるんだヨ。それもこれさえ覚えたら、ロックギターの基本は全て抑えたのと同じなのサ」って勧められたのですわね。

 このイントロの「テレレテレレレレレッ、テレレレテレレッ、テレレレ、テレレレ」ってとこから躓きました。私。

 そして続く歌のバック部分パートは、小指が届かないので弾けないッ! 弾けないのですッ!

 思わず小指を掴んで、グイグイ引っ張りながら「のびろー、のびろー」ってやりましたけれど、そう簡単に伸びるわけありませんわな。

 初心者向け、それも基本が全て詰まった曲が弾けない真実は、私にギターを諦めさせるのに十分な理由となったのです。

 とどめとばかりに、あの有名なレッドツェッペリンの「コミュニケーション・ブレイクダウン」すら弾けない現実。

これ、世界一簡単なイントロらしいんですが、無理なの。頑張っても違う音が出るの。

 うっ、全部思い出てきた。泣きそう。

 

「なら、何故お前はギターをやろうと思ったんだい?」

 答え:好きなギタリストやバンドの曲が弾いてみたかったから。

 

 ここに発表。

 これら弾いてみたい曲の殆どが〈八分の九拍子〉や〈八分の七拍子〉や〈十六分の十一拍子〉。おまけに曲のベースになっているのがジャズだったり、南インドの音楽だったり、ド変態だったりと、嫌がらせのようなもんばかり。ぐへぇ。

 ひっ、弾けるかッ! こんなもんッ!

 

 ええ。ギターなんて弾けなくても生きていけるんですヨ。

 だから私ね、カホンを始めようかなと。

 ペルーの打楽器で、長方形の木製椅子みたいな形のヤツ。

 このカホンの上に座ってね、手で小気味よく叩く楽器なの。楽しそうでしょ?

 え? パーカッション的なものらしいけれど、お前にリズム感があるのかって?

 そんなもんあるわけがないっすよネー。

 カスタネットを叩いても「いち、ん、に、ん、さん、ん、よん、ん」の「ん」がずれるンだワ(どや顔)。

 

 そんな私の横にね、弦が八本あるギターが立てられているんですよネ。

 なんでなんだろうなぁ。ギター弾けないのになぁ。不思議だなぁ。普通のギターって弦が六本なのになぁ。増えてんなぁ。これも怪異なのかなぁ。妖怪のせいなのかなぁ。

 そっと持ち上げてみましたヨ。

 思ったより重い。本物でしたヨ。

 

 ……どうすんの、コレ。

 私、弦六本でも弾けませんヨ? 念のためにもう一度言いますけれども。

 ふはっ。