梅雨。
日本の雨期とも言える天候です。
語源は様々ですが、〈梅の実が熟する時期だから〉がなんとも風情があります。
確かに梅雨の時期が近づくと、梅の実が鈴生りになりますもんね。
それに青果を扱うお店の店先に足を運ぶと、ふんわり清々しい香りが漂ってきて、頬が綻びます。
北海道では梅雨がない……とはいえ、太平洋側では梅雨っぽい気候になるとか。
梅雨と言えば、思い出す話があります。
昔、親族から聞いた物です。
ある休みの午後です。
梅雨の長雨の最中、部屋の中から何気なく庭を見ると何かが立っています。
隣近所は仲が良く、用事があると玄関か庭先へ入り、声を掛けるのが通例です。
こんな天候に誰が来たのだ、と目を凝らしますが、全体はボンヤリとしか見えません。
特に顔部分は霞が掛かったようになっています。
おかしいな、目が変になったのかな、と思った途端、雨が激しさを増します。
庭に来た人の姿が隠れるほど酷い降りでした。
(大丈夫だろうか?)
ドウドウと轟音を立てて降る雨を透かし見ますが、すでに誰もいないように思えました。
気がつくと電話が鳴っています。
雨音で気づくのが遅かったのです。
受話器を取ると、近所の友人の訃報を告げる内容でした。
親族が言うには、庭に来た〈ボンヤリとしてハッキリ見えない人〉はその友人だったのだろう、と。
「幾ら雨が強くても、真っ昼間、庭先にいる人間の顔が見えないはずはないもの」
今から三十年ほど前の話です。
さて。
梅雨はじめじめしていて、不快指数が高くなる時期です。
が、たまに気温が下がり、肌寒さを感じるときもあります。
こんな日はとても好きです。
厚い雲で薄暗い外。
ザァザァ続く雨音を聞きながら、ゴロゴロしたり、漫画を読んだり、温かい紅茶や珈琲を飲んだりしていると、大変心地よいですから。梅雨の最中の楽しみですね。
それに、雨音に誘われるように眠りに落ちると言う、怠惰な午睡も好ましく。
一度なんて、雨の降る日、小休止と仕事部屋の床に寝っ転がって〈賢い犬 リリエンタール〉を読んでいたら寝落ちしちゃってね!
そしたら、〈起きないと間に合わないよぅ〉と耳元で誰かの声がしまして。
ハッ! と起き上がって時計を見たら……ええ。うん。
何が〈起きないと間に合わないよ〉なのか、とても言いたくありません。
慌ててパソコンに向かいまして、ええ、間に合いましたよ。ふはっ。
落ち着いてから考えたら、誰が起こしてくれたのか分からないんですよ。
私ひとりでしたし。
おまけにどんな声だったかも覚えていないという。
ただただ優しい声だった、とだけしか。
夢を見ていたのか、それとも。
今回は梅雨を迎える少し前のこの時期、こんなテーマでお送りしました。
かしこ。