少し前のことになるが、黒豆をいただいた。
小正月あたり・・・、だったと思う・・・、思う、というのは直接受け取っていないからだ。
冷蔵庫の上段に、ちょこんと、その包みは置かれてあった・・・。
わざわざ話題にするくらいだから、ただの黒豆ではない。
90歳を超えたご婦人のお手製である。
保存用のパックに詰められた黒豆を、上からきれいにのして・・・、
四角くたたんで・・・、包装紙でくるみ・・・、
表に「お年賀」と筆でしたためた白い紙が貼ってある。
う~んんん、凄いなぁ、とばかりに唸り・・・、感心する・・・いや、尊敬かな・・・
なんて、心のこもった・・・、さりげなく重みのある「お年賀」なのだろう・・・
かなわないなぁ、としばし眺めいる・・・。

ふっくらと炊きあがった豆は
舌先でも潰れてしまうほど柔らかいのに、煮崩れることもなく汁を十分に吸った姿が美しい
薄味でも甘みが深いのは、豆本来の持ち味を引き出しているからだろうが、
実に・・・、実に・・・美味しい・・・

そして、このつや、
非のない到来物に、何度もお正月を楽しませていただいている!
このような贈りものを頂戴する私はほんとうに果報者である・・・
あるとき、遠慮がちの小さな声が、背中ごしに聴こえた・・・
「あのぅ・・・、・・・奥様は、お料理をなさいますの・・・?・・・」
私は・・・、本当に・・・料理好きに見られることが・・・、ない・・・、
「あぁ、えぇ・・・、実は・・・結構・・・好きなんです・・・、でも、最近はさぼってばかりですけど・・・」
笑いながら振り返ると、小さな身体をさらにすぼめて言い訳をされる・・・
「あっ、いえいえ、いつもお忙しそうに・・・していらっしゃるので・・・、 まぁ、でも・・・なさるんですね・・・」
「いいえぇ、作ると言っても簡単なものばかりです。煮物とか・・・あえ物とか・・・お酢の物とか・・・、
・・・そう言えば、煮豆なんて、もうずぅっと作っていませんね・・・」
と、心なしか顔に笑みが差して、
「あら、そうですか・・・わたくしね、お料理は結構するんです。では、今度、煮豆を作ってきましょう・・・」
「えっ、いぇいぇ、とんでもない、ご面倒ですから・・・、どうぞ、お気遣いなく・・・」
「お気遣いだなんて・・・、それに面倒じゃぁないんです。
あっ、お豆でしたら、お隣の奥様が北海道の方なのでいただきますのよ。
わざわざ、買わなくてもあるんです・・・」
買うことなんか・・・そんなことなんか言ってない・・・、作る手間の方が、余程大変じゃないですか・・・
これが、お豆のご縁の始まりだった・・・
みごとな白花が届いたのは、それからすぐのこと・・・
圧力釜だから手間がないのだ・・・とは仰るものの、いやいや手作りが相当なのは身に沁みている
美味しい笑顔が代償だとしても、今の私だったら面倒が勝つ・・・
「お年賀」の黒豆に感心し、何気にテーブルに目をやると、冊子が二冊・・・
はがきサイズより一回り大きめの横開き・・・
時代を感じさせる表装に、なんだろうと頁を繰ると・・・、なんと料理のレシピではないか・・・
今の料理本と違って写真はなく、季節のイラストとエッセイ、それにちなんだお惣菜の数々、
当時はわき役であったろうに・・・、今作ったらメインになりそうだ・・・
ふぅ~ん、と感心して表紙を閉じると・・・
あら、まぁ・・・
そこには、かのご婦人の名があった・・・
お料理の先生だったのね・・・
そうなんだぁ・・・
なんと、奥ゆかしく・・・、自慢もされない・・・
どうりでお上手なわけだ・・・
今は、仕事仕事の毎日だが、
30年たったら、私もこんな生き方ができるのだろうか・・・
いや、もうちょっとでしゃばっているかな・・・
いや、面倒臭いって全部放り投げているかな・・・
いや、いやいや・・・、どうなんだろう・・・
・・・あげたい相手がいればいいんだけれど・・・
o(〃^▽^〃)o