「韜光養晦(とうこうようかい)」~中華人民共和国(中共)の国家戦略に 「韜光養晦(とうこうようかい)」とは、「光を韜(つつ)み養(やしな)い晦(かく)す」。すなわち 「才能や野心を隠して、周囲を油断させて、力を蓄えていく」という処世の姿勢をいうのだ。 日本を抜いて、「世界第2位の経済大国へと急成長を遂げた中華人民共和国(中共)」だ。 「その中共が米国と覇を競っているか?」といえば、「そうではないだろう」と、小生は指摘 しておこう。「中共の指導者たちは、非常に慎重に戦略を練っている」はずなのだ。それは 「かつての米ソ対立のような構図を作らない」ということである。 2004年に、故;鄧小平が使った「韜光養晦」という言葉を改めて紹介しておこう。「国力が 整わないうちは国際社会で目立つことをせず、じっくりと力を蓄えておく」という戦略である。 習近平をはじめとする中国共産党指導部ではこの考え方を踏襲して、「米国と敵対関係に ならないような外交戦略を取っているのだ」と分析した。 中国共産党が、昨年6月に開いた「中央外事工作会議」は外交政策に関する最重要会議 である。2012年に習近平氏が最高指導者になってから2度目の開催となるこの会議には 特別な重みがある。 2014年に開催された前回会議では、鄧小平氏の「韜光養晦(とうこうようかい)~才能を 隠し好機を待つ」という外交方針が葬られて、「行動の時代が到来した」と告げられた。 以来、中共は南支那海で軍事プレゼンスを拡大。その一方で、「一帯一路」の広域経済圏 構想を掲げ、ユーラシア大陸のほぼ全域から、アフリカ、その他地域に至るまで、73か国 へとウイングを伸ばしてきた。 さらに、米国を軸とする「第二次大戦後の国際経済秩序である『ブレトン・ウッズ体制』には 基づかない新たな国際開発金融枠組み」である「アジア・インフラ投資銀行(AIIB)」を創設 して、先進国の大半を加盟させることにも成功した。 中国人民解放軍の海軍は、アフリカのジブチ,スリランカ,パキスタン等に基地を置いて、 地中海やバルト海にまで出張ってロシアと合同軍事演習を行うようになってきた。 2014年の工作会議を境にして起きた変化とは、このような「首尾一貫した大戦略」が姿を 現したことだけではない。習近平国家主席は「共産党の支配力」を未曾有のレベルにまで 拡大した。専門家による実務的な政策決定を排して、政治的なイデオロギーを前面に打ち 出すようになっている。 自由な民主主義社会が勝利して、「歴史の終わり」が訪れるとしたフランシス・フクヤマ氏 の歴史理論に真っ向から対決を挑み、「レーニン主義的な一党独裁を本気で維持していく」 つもりなのだろう。