中谷ゼミ第77回勉強会メモ 

 

日時;2022年7月21日(木) 18:00~19:30 

場所:明治安田生命大阪梅田ビル+Web 

アドバイザー:中谷常二先生 

参加者:現地10名、Web4名

 

課題図書 

 

 

 

第1章 「 正しい 戦争 」 は本当にあるのか 

〇 20年前はかつてのソ連や東欧諸国が同じようなルールを共有できる政府に代わって軍事的緊張が低下し、軍隊を減らすことができた時代。ところが今は軍備を増やす方向になっているように、緊張緩和と緊張の高まりのメカニズムはまさに本書の言うことが今の欧州に妥当している。 

また、当時はアメリカが世界の警察とはいいながら疑問があったが、今は中国が台頭しており、ロシアも経済的には苦しいながら負けずに強い意志を持って戦うという状態。 

20年前のアメリカ一極というのと、今のように対立軸がある中で、著者が言うように緊張緩和策を探るのとどちらが良いのか。 

・中国の位置が当時と今では全く変わって本書では想定されていなかった別の冷戦のようになっている。 

・経済の拡大で戦争が抑えられると思っていたところが逆に経済の拡大が市場の拡大、属地の拡大となりかえって戦争のリスクが大きくなっている。 

 マキャベリの時代から「すべての国の土台は良い法律と良い武力である」といっていたのから進化していないと重く感じた。 

〇 単純化して言うと、正しいプロセスを踏んだ戦いは正しく、正しいプロセスを踏んでいない戦いは誤りということか。正しいプロセスとは様々な緻密な外交交渉により互いにぎりぎりのところで自国の利益を最大化する交渉を踏むということと理解。著者は国際政治学者なので倫理的な考察というより、現実の戦争がどのようなプロセスで戦争に至ったのか等を研究されたと思う。正しいプロセスを踏んでいるか否かだけで戦争の善悪を割り切る考え方。刑法の正当防衛の考え方とも通じるか?真珠湾攻撃も宣戦布告をせずに急襲したので卑怯だと言われており、それも一つの考え方とは思うが、そこまで割り切ってよいものか。 

 

〇 第1章の最後の部分に記載されている「きなたい取引や談合を繰り返すことで保たれる・・・打算に満ちた老人の知恵」の分かりやすい例は? 

・カントの時代の独仏停戦協議、独ソ不可侵条約などがあたるのではないか。次の戦争をするための準備期間のために停戦協定を結ぶ例が多いのでは? 

〇 (戦争もプロセスが正しければ正しいという考えが)刑法の正当防衛と似ているという話があったが、正当防衛はかなり要件が厳しく国家間ではあくまで攻め込まれた時のはなしであり、他国に出て行って攻撃するというのは正当防衛からは離れる。 

・弁護士は裁判で戦うが、裁判という制度は裁判官が裁定してくれるという、ある意味の楽さがある。国同士の争いは誰も答えを出さない。最終的には強いものが勝つというのは間違いない。東大講師(国際関係論)の小泉悠が言う、ロシアの強さは「自分は負けない」という強い意志に基づいている というのは確かにそうかもしれない。 

・社会契約論は国内で、互いが強制力を国に与えて互いにそれに従うというルールを作ったものだが、国際間ではそれをカバーできる裁定機関がない。 

・国家権力も最終的には力で押さえつけるというところがある。国際間では難しいところ。 

 

第2章 日本は核を持てば本当に安全になるのか 

〇 核軍縮の頃、プーチンが軍縮に合意したが、ロシアは当時それほど弱かったのだろうか。イメージ的には経済的には当時より今の方がロシアの力は落ちているように思う。 

・経済的には冷戦終局のロシアは今より弱かったのではないか。冷戦終結による緊張緩和を背景に東西の経済的融合が進み、西側諸国もロシアや中国からの資源・エネルギーの輸入、市場としての中国などがないと経済的に持たない状態にまで密接になったことで、相対的にロシアや中国の経済的地位が増しているのでは。 

・ロシアが強気とは言っても、アメリカと戦う気まではないのでは。 

・核を持つ国が増えていることについて、後先考えずふるまう「無敵の人」が国レベルで出てきたらこわい。 

・核を持つことの経済的負担や緊張を高めるリスクなどを考えると明白に日本が核を持つべきではないと考えるが、他の日本人の意見を聞いてみたい。 

・持つべきかどうかというより現実的に持つことは不可能だと思う。価値観を共有する国と協調していくのが現実的。話し合いの余地を残しながら均衡を保っていくことが大切で、国際的仲裁機関などにも期待していた。実際には上手くいっていないがそういったものが実効性を持つような議論を深めていくことが大切ではないか。 

・核を持つ国が増えて、核の技術を持った人間が様々な国に散在している。原子力発電所にも共通するが、核兵器の管理がきちんと行われるかどうか不安がある。「無敵の人」やテロリストの手にわたることのリスクへの対策も考える必要があるのではないか。 

 

第3章 デモクラシーは押しつけができるのか 

〇 独裁者は排除しなければならないのか?企業でいえばワンマン経営者で、ガバナンスが効きにくい面はある。一方、社外役員などをいれてガバナンス重視の民主的経営でも利益が上がらなければ企業としては成り立たない。独裁制でも正しい統治ができれば悪いとは言いきれないのではないかと考えたりもする。 

・中国の先生と話をすると、10億人の人口を統治しようとすると今の制度でないと成り立たないという。人口規模との関連性はあるかもしれない。北欧の国は人口規模では日本の県レベル。日本の1.3億人という人口規模は今までは民主主義でなんとかやってきたが今後もそれがうまくいくのか。 

・中国やロシアは共産主義というより一部共産党員の利権が優先されていることが問題なのでは。ロシアはソ連当時の圏域まで統治を広げようとしているし、中国も覇権を広げようとしている。民衆がそれに対して不満を持たなければ成り立ってしまう。経済的には成長して金持ちは日本の金持ちよりずっと金持ちになっている。農村の住民はそうでもないが深圳などではすごい金持ちが出てくる。発展途中の国では民衆の生活レベルが向上していくことで不満がでにくいので成り立ってしまうのでは。 

・核については日本は第二次世界大戦の過去があるので他国から核武装を許されることはないだろう。個人的には(核兵器の管理を別にすれば)すべての国が核を持つか、すべて廃棄するかのどちらかなのではないかと思う。 

・ウクライナの問題はウクライナから見れば「戦争」ではなく「防衛」なのだろう。 

・その土地の統治スタイルを選ぶのはその土地の住民だという著者の一貫した考え方には共感。統治するものの資質に依存するところはあるが、独裁制の方が判断がスピーディだったりすぐれた面もあるので、特に発展途上の国では国民がそれを良しとして独裁制が維持されることはあるだろう。しかし、経済力と教育が上がるにつれて不公平感が増してきて内側から民主革命がおこり独裁政権を倒すというのが本来だと思う。一方、日本だけが何故外から与えられた民主制がうまくいったのかは謎。 

 

第4章 冷戦はどうやって終わったのか 

第5章 日本の平和主義は時代遅れなのか 

〇 安倍政権が改憲論を唱える理由として憲法学者が自衛隊を違憲だと言っているという議論があったが、殆どの憲法学者は自衛隊を軍隊と認めたうえで9条とどう折り合いをつけるかという議論をしている。明確に違憲を唱える学者はほんの少数ではないか。 

・自分を含めあまり戦争ということを考えたことがないので、ウクライナ問題などを見ても単純にそんなことしなければいいのに、と思うだけの人も多いと思う。この本を読んで、均衡という考え方があることに気づいた。また、日本の戦争犯罪についても認識していなかった。ほかの国々からそうみられているという認識もなかったが、若い人の間ではそういう人の方が多いと思う。ところが国内でそういう認識を広げようとしても共感を得にくく、やはり被害者論の方が共感を得やすいのだろう。 

・学校で第二次世界大戦で日本がしたことの事実をきちんと教えてもらわなかった。外国人に聞かれても説明できない。事実がどうなのかという検証もきちんとできていないのかもしれないが、日本の中で共通認識がないことが問題ではないか。 

・社会科の先生と話をするとイデオロギー的に偏っている教育がなされているように思う。 

・戦争に関する事実は基本的に勝った側の視点でしか語られないことが多く、何が本当の事実なのかは難しいと思う。 

・広島出身で原爆についての教育を継続的に受けてきたので、日本軍の非道や世界では原爆は正義の戦争の仕上げだと見られていると言われると忸怩たる思いになる。真実を教育で教えることの大切さを感じた。 

・広島勤務の際に出撃した軍港などの戦跡や被害を受けた学校の慰霊祭などを見て心を動かされた。単なる話ではなく、そういった「もの」に触れることが考えるきっかけになると思う。 

 

第6章 アジアの冷戦を終わらせるには 

〇 陰謀論のような話を耳にすることがあるが、一国の政策を一人の人間が決めていることはなく、個々人が持つ情報というのは思ったより断片的。その中で考え抜いた衆知を集めて政策となる。日本の官僚の中にも経済グループと安全保障グループがあってその時々の力関係で動いているという分析はバランスが取れていて信頼できると感じた。 

企業不祥事でも外からは悪しき意図で動いたように言われることでも実際は個々人が一生懸命考えて行動しているのに会社として間違った方向に行ってしまっていたという事例が多い。これを国際政治にあてはめて考えてみると正しい方向に導くのは宗教やイデオロギーだと思っていたのだが、本書を読むとそうではないんだと実感した。 

このゼミに入らせていただいて価値観という唯一絶対のものを探すつもりでいたが、唯一絶対のものはなく、様々なものの見方、多様性を認めてその中で調整する調整力、事実に関する様々な情報をもとに考えることを学ぶことが必要だと感じた。 

・平和は老人の知恵を駆使して戦いを避けること、という点には少し疑問を感じた。これを現実に当てはめると現在のウクライナの情勢はウクライナ側が戦いを避ける交渉をしなかったからロシアが怒って戦争になったということになるが、攻め込まれた側が防衛するのは、正当防衛には厳しい要件があるとはいえやはり正しい戦争ではないのか。また、国際紛争を解決する手段として武力を用いないということはある意味義務論的に我々に課されたルールではないのかと考える。 

この対談の著者の相手役はロック解説者の渋谷陽一さん。ロックをやる人というのはもともと反体制の人が多かったと思うので、渋谷さんも年を取ったんだな、と思う。 

・最後の章で言っていることは間違いではないと思うが時間軸を少し無視していると感じた。ポル・ポトの独裁が続いた時期、リアルタイムに何ができたのかを論じていない。弱り切ってから交渉して解体することはまだできても、あれほどひどい独裁政治がおこなわれているその時になすべきことは何だったのかという視点も必要ではないか。 

・ポルポトが入った時には民衆は自分たちを解放してくれるものとして歓迎した。それがだんだんとおかしな、そして酷いことになっていった。バタフライ・エフェクトのように予期せぬことで政治の流れが変わるということを踏まえると、いつの時点でだめと言えたのだろうか、と考えてしまう。そう考えると、うまくいくのは運なのかな、と考えるとこれもまた違うだろう。 

・スタートでは歓迎されていたとはいえ、それから虐殺が起こってひどい状態になってきたときに放っておいてよかったのか、ウイグル問題やシリアの問題でも放っておいて良いのかという問題はある。著者が論じるように軍隊を外にだすのだから国連決議など厳しい要件が必要というのは分かるが、国連が機能不全を起こしている中、アメリカの単独行動など悩ましい。現に不幸な人が続出している時に何ができるんだろうか。 

・独裁は権力者が利権を取りすぎるところに問題がある。ベトナムではホーチミンは権力を持っても質素をとおしたので今でも慕われている。独裁制であっても民衆がみなハッピーであれば成り立つのではないか。 

・この本がすべて正しいということではないが、考えるヒントが沢山ある本なので皆さんにご紹介したかった。考えるきっかけになれば幸いです。 

 

(文責 北村)