カラオケ
私は、カラオケ大嫌い人間でした。
今は、「でした」と、過去形で語れる自分が幸せです。
私が初めてカラオケ・スナックに入ったのは、今年の2月12日のことでした。
前の日、かつての教え子たちと呑んでいたら、
「先生も1つぐらい趣味を持ったらどうですか? カラオケ、いいですよ。気分転換になるし、内臓脂肪も減るらしいですよ」
と言われ、挑戦してみる気になりました。
「ヨシ!」と気合いを入れ、お店に入ったのですが、すごく盛り上がった店内の雰囲気に圧倒され、私はこっそり、隅っこに座りました。
しばらくし、恐る恐る歌ったのは、「東京流れもの」という、学生時代に観た映画の曲でした。
歌い終わったら、拍手がありました。私でもウケるのか、と一瞬喜んだのですが、それは私の大きな誤解でした。
拍手に混じり、「よかった、よかった。
短い曲でよかった」というヤジが飛んできたのです。
でも、不思議なことに、そのヤジには、トゲのようなものが感じられませんでした。逆に、何とも言えないような温かいものが伝わってきたのです。
それ以来、同じ店に通っています。
女性の歌の方が歌いやすい、とか、歌ってて音楽が聴こえるようにならないといけない、とか、歌いやすい曲ばかり歌っていてはダメだ、とか、歌詞をちぎっては投げ、ちぎっては投げるように歌え、とか、天井を向いて歌う練習をすると、楽に歌えるようになるとか、とにかくいろんなことを教えてもらいました。
今では時々、「やんや、やんや」という、かけ声を頂戴することがあります。「いいぞ、いいぞ」という声援です。
帰る時、普通なら、「また来いよ」って声がかかると思うのですが、私が通っている店では、「また来るなよ」と言われます。
「おい! 罰金は払ったか?」なんて言われることもあります。
しかし、そんな声が私にかかるようになったのは、カラオケ仲間の一員として認められたからでしょう。
ほんとうに気のいいお客さんばかりです。
いい店です。
でも、お客さんの中には、闘病中の人がいたり、配偶者と死別した人や、親孝行できなかったことをいまだに悔やんでいる人など、それぞれに「心の闇」を秘めている人が多いようなのです。
歌や笑いには、「涙」が隠されていたのです。
だから、人に優しいのです。
だから、店も温かいのです。
そんなことを知ったのは、通いはじめて何ヶ月も経ってからのことでした。