こんにちは、粟津サヤカですコーヒー
京都を旅するコミュニティツアーのガイドをしています。
 
眺めているだけでワクワクしていた
とあるレトロ建築の解体がきっかけで、
レトロ建築がさらされているどうしようもない現実を知り、
ならばせめてその姿を記録にとどめようと
ブログを書いています。

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京都を飛び出し、

早春の奈良を旅しながら、

レトロを記録する

【番外編奈良】のレトロマン散歩。

 

今回は、

奈良ではよくある

これぞ奈良!のレトロを記録します。

「奈良の風景にあわせれば建築はこうなる」

そんな奈良の自信作、

旧奈良県物産陳列所です。

 

ここは確かに奈良。

もちろん日本の奈良です。

 

瓦を載せた反り返った屋根、

品格ある破風の玄関、

味のある深い木目に白い壁。

 

私たち日本人が世界に誇る

寺院建築の粋を踏襲した

見まがうことなき日本の宝!

 

それなのにどうしてでしょう?

このざわざわした心地よい違和感!ガーン

 

玄関破風の上部にはイスラムを思わせる三連窓。

心地よい違和感の正体は

確実に彼らの発するオーラによるもの。

エキゾチック=東洋的とまとめることなかれ。

日本は全世界的に

東洋に属する国かもしれませんが、

これは確実に日本的とは違います。

 

イスラムを思わせる玉ねぎ型のフォルムは、

京都でも寺院系レトロに使われていますが、

日本的なものとコラボしたとき、

どうしてこんなにも妖しく、

気高い空気を醸しだすのでしょうか。

 

中央の玄関扉は中国テイスト。

マージャン牌のような(※)明り取りの窓がふた組。

格子戸のすきまから

午後の気だるい日ざしのなかで

マージャンに興じる中国マダムたちの姿が

見えるようです。

(※あくまで個人的感想です)

 

旧奈良県物産陳列所は

明治35(1902)年竣工。

奈良県の殖産興業、

産物の展示販売を目的に

奈良公園内に建設されました。

 

戦後は国に移管され、

昭和27(1952)年から同55(1980)年まで

奈良国立文化財研究所春日野庁舎として活躍、

昭和58(1983)年には重要文化財に指定されました。

 

その後、奈良国立博物館の管理下で

仏教美術資料研究センターとして

現在もその容姿にぴったりの役割を全うしています。

 

中央楼から東西に翼を広げた形状。

両端に小さな楼を伴っています。

この左右対称の楼閣美、

どこかで見たことありませんか?

 

設計は関野貞(せきのただし)。

奈良県技師として

古社寺保存修理事業に尽力した

建築史学者です。

 

古社寺建築を知り尽くした学者の作ですもの

そりゃあこうなるわー。

 

特に関野は

京都宇治の平等院鳳凰堂を研究していたこともあり

随所にその特徴が取り入れられているのだそうです。

 

中央2階部分、ここから見ると

周囲に高欄が巡らせてあるのがよくわかります。

かどで木材を交差させ、

跳ねあげたような形にしているのを

跳高欄(はねこうらん)というのだそうですが、

日本の城や神社など

伝統的な建築物でよく目にします。

 

木材が細くて繊細な雰囲気は

中国的な印象です。

建物内部に二階はなく吹き抜けになっていて

高欄の内側は人が自由に歩ける場所ではないので

高欄は装飾的なものです。

 

そして特徴的な、あの丸窓!

これはイスラム、かな・・・。

かすかに中央アジア的な雰囲気です。

丸窓は2階の四隅に一対ずつ配置され

「アタシはただの寺院建築じゃないのよっ!」

とピリリとスパイシーに自己主張しています。

 

窓がずらーっと左右に並んでいます。

中をだーっと走ってみたい・・・

左右の楼をつなぐ

廊下のような造りをしています。

 

建物は平屋建てのため、

上部の窓列は明り取りのためのもの。

奈良県の産物を

明るい光の下でよく見てほしい!

という意図でもあったのでしょうか。

 

両端の楼部分のいただきには

蓮なのか桃なのか何だか神々しいものが。

楼の頂上にお宝を据えた建築のことを

宝形造(ほうぎょうづくり)というのだそうです。

お宝を守ろうというのか、

たくさんの鬼瓦が四方八方に目を光らせています。
 

ここまで見てきて

お気付きの方もおられると思いますが、

周囲には見事な枝ぶりの枝垂れ桜が

目の前にせまった花の季節を待っています。

桜に彩られた姿も

きっと日本美にあふれた美しい姿でしょうね。

また、時季をあわせて訪れたいものです。

 

今回は旧奈良県物産陳列所を記録しました。

 

レトロを記録していて思うのですが、

明治の建築、特に国や自治体系の建築には

実に様々な役割が課せられています。

 

世界に劣らぬ近代的な技術があること、

またその技術を使える財力と人材があることの誇示、

日本の美意識を世界に向かって発信すること。

 

それでいて古都においては特に、

風景にあっていることが求められる。

 

古都のレトロ建築は

それゆえレベルが高いといえるのかもしれません。

 

冒頭でもちらりとお話しましたが

奈良ではこのタイプはめずらしくありません。

それは、古都の様々な厳しい条件をクリアして

人々から好まれた証拠。

旧奈良県物産陳列所は

とても古都的なレトロといえるのではないかと思いました。

 

それでは、

次回も奈良編をお送りします。

次はどこを記録しようかな~ランニング

 

今回の記録は下記をもとに作成しました。