Touch&Goと言う言葉を聞いた事が有ると思います。離着陸を集中して行う訓練です。一番楽しい科目です。30年以上前、YS‐11 FO昇格訓練は150回位練習しました。訓練生6~8人で毎日棒グラフを引き上げて100回を超えると次の棒を引き上げていました。

現在はSymulator訓練が多くなっているので、実際の着陸回数は少なくなっています。

初めて小型機又は、プロペラ機からJET機に乗る場合は実機訓練は45分ずつ4回計3時間、そして審査です。

JET機の機長又は、FOが他のJET機に移行する時は、試験はすべてSymulatorで終わりです。その後大分空港で実機を使った離着陸を3回以上経験するだけです。

ある日、教官会議でDownWindの幅を決める時の考え方で論争が有りました。陸上で訓練する場合は地点目標があるので問題になりません。羽田空港(50年以上前から訓練は行われていないがSymulatorでは良く使われている)や大分空港ではDownWindは海の上で参考になる地上目標が有りません。

GPSが搭載されている機種はNDに絵が描かれているので簡単です。しかし、VOR/DMEしか無い古い機種はVOR/DMEの真横に来て初めて正確な距離が分かります。

勿論エアバスですからGPSが装備されています。

Training Manualには150~160ノットで25度バンクで180度回るとほぼ2マイル(3.7キロメートル)になると書かれています。風の強さと方向に応じて幅が増減します。しかし、ある教官が東風(海風)の時は風の強さに応じて予め自分で計算した表を見て18度バンクとか23度バンクとか中途半端な数値を決めて一定のバンクを維持し、幅2マイルを作るべきだと言います。実際彼の担当した訓練生がその様にしていたのでこの会議の議題にしたのです。

しかし、地上風として報告されている風と実際1500フィートの上空の風は強さも方向も大きく異なります。そんな不正確な地上の数値を信じて一生懸命に中途半端なバンク角をKeepするのは馬鹿げていると主張したのです。15、20,25度には守り易く目盛りが付いています。そんなバンクに気を取られるより他の事に注意を払うべきだと言いました。

私の考えは、NDに描かれた線は飽く迄参考にすべきで、幅は風に応じてMax2マイル±0.5マイルのフレキシブルな考えにすべきだと思っていました。

正確に2マイルを守ると、BaseturnからFinalturnの時間が全く変わって来ます。東風が強ければ余裕がなくなりTurnを継続することになり、逆に西風が強い時はBase LegでTurnを10秒以上止めることになり降下するプランが崩れます。

私の考えは第一旋回から第2旋回までは25度バンク一定で、Rolloutする時に風の強さと方向に応じて修正角を早く大きく修正し、余裕を持ってその間に必要な手順(Procedure)を行い、幅が決まったらWCAを取ったHeading(方位)にします。そして、NDに描かれた線より広くしたり狭くします。こうする事によりBase Legでの時間をより同じにすることが出来ます。

この考えを明確な意思表示(Intention)すればよいのです。

この時、私が強く主張するので、後日私に対する非難が漏れ伝わってきました。私ももっとソフトに柔軟に対応すれば良かったと反省しました。

暫くしてFOの限定変更試験があり、試験も無事終了した後、CAB試験官が離着陸を経験したいと言うので2回楽しんで貰いました。西風の強い冬季の訓練でFOも何とか慣れて試験に臨みました。良く頑張ったと思います。

試験官も受験生の離着陸を見ながら一生懸命イメージフライトをしていたのでしょう。見事に着陸をこなしていました。

試験官はJASのエアバスの訓練を終了してから殆ど離着陸はしていないと思われます。その時試験官は第一、第二旋回を30度バンク一定で幅1.7マイル位にして見事にBaseturnからFinalturnを決めていました。NDに描かれている線よりだいぶ内側です。我々はMax25度バンクで統一しているけれど、こう言う風の強い時は急旋回の30度バンクでも良いですよ、幅も柔軟にして良いですよと示してくれたのです。私と同じ考えで良いセンスを持っていると感じました。彼も望んで試験官になった訳ではないことは知っています。彼も毎日飛びたいのだろうと思いました。

又、別の試験官の話です。

YS-11のCAB試験は1泊2日とか2泊3日とかで大分空港に来て貰います。FOの限定変更試験の最終日でした。雨が降り始め雲が低くなり、計器飛行で出来る科目は全て終了したが、離着陸が残ってしまいました。天気図からすれば明日は朝から晴れる予想です。試験官に明日の予定を聞くと ”日帰りで熊本のANAの試験に行きます。今夜航空局に寄って東京の家に帰り、明日早朝から熊本空港に行く予定だ”との事。”明日、残りの試験を終えた後、直接熊本空港へ送りますが、もう一泊如何ですか?”と聞くと ”そう出来るならこちらも良いですよ”と言ってくれました。その前に訓練所の承諾は得ていました。会社もこのためだけに再スケジュールを組むことは大変です。

翌日は予想通り朝から快晴です。2人の離着陸2回ずつ順調に終わり、そのまま熊本空港に向かいました。そこで試験官が私に操縦させてくれと言うのです。

試験官もYS-11のライセンスを持っています。訓練生がコクピットから出ていこうとすると ”見ていても構わないよ”と言ってくれました。因みに訓練中他の訓練生はコクピットドアを開け放し、立って見学します。ほんの30分弱のフライトでしたが楽しんで戴きました。

熊本空港に到着するとANAの格納庫の前に7~8人の人が一列に並んで出迎えてくれました。気持ちの良い経験でした。