今回は横風着陸に付いて説明します。その前にある悲しい事故のお話をします。

1986年12月28日13時21分山陰本線余部鉄橋(あまるべ)で列車落下事故が有りました。ただの脱線事故ではありません。高さ41メートルから地上に落ちたのです。幸い二駅前の香住駅で団体の乗客176名全員下車し回送列車となっていました。地上の水産加工場を押し潰し女性従業員5人死亡、6人負傷、6両編成の車掌1名が犠牲になる悲惨な事故が発生しました。現場は鳥取市から東約30キロ、米子空港から約70キロ位です。両側共にトンネルです。トンネルを抜けると高さ41メートル、長さ309メートル、1912年完成の鉄橋です。すぐ北側は冬の日本海で、史上4番目に強い季節風が吹いていました。先頭車両は機関車で非常に重く、後方車両も若干重かったのだが乗客のいない中央から吹き上げられ機関車だけ残って後方車両から落下したので車掌だけ死亡し、運転士は運良く助かりました。狭い谷あいでベンチュリ―効果で強くなった33メートル/66 ktの突風に煽られたのです。

丁度その時間に私は米子空港に着陸しました。30度位のWCA(Wind Correction Angle)を取って蟹の横這飛行で進入していました。予想していたより揺れないので少し気が緩んだのか、接地寸前にスーッと風下に流され右にWing Lowを少し増やし(ノーショックでした)何とかRunway Light(滑走路灯)を蹴とばさずホットしました。YS-11の着陸速度は100Kt以下なのでWCAはジェット機より多く必要なので、ターミナビルに向かって来るようだったと地上職員に言われました。

余部鉄橋事故は伊丹空港に戻ってからニュースで知りました。その強い風が米子市を1時間ほど前に通過したのでしょう。と言っても米子空港は平地で風を乱す障害物は殆ど無いが、余部鉄橋の有る位置では日本海から直接吹き付け、狭い谷のベンチュリー効果で5割増し以上に強くなっていたでしょう。強く記憶に残った事故でした。

では強い横風着陸を説明します。横風着陸には4種類有ります。

1.Wing Low Landing

ある高度からBankを取り機軸を合わせて通常のFlareをする。風の衰えに連れBank角を減しつつ風上側の主車輪から接地する。主として翼面荷重の小さい小型飛行機で安易な方法である。

2.Crab Landing

全く機軸をCenter Lineに合わせず、水平に両車輪を同時に接地させる。Boeing B‐52の様に2発づつセットになった8発エンジンの外側Engineが接地し易いため、主車輪を予め滑走路方向に合わせる機能の有る機体は良いが、A300クラスの機体では弱い横風でも機体の捻じれにより嫌なショックが有り、客室ではハットラックの捻じれにより嫌な音がします。又、海風の様に進入中揺れが無い時に、大きな沈みが発生した時機軸を合わせる時間が無く接地すると油断して構えていないCAは垂直加速度が1.3G位でもショックと捻じれで腰痛が発生します。

3.Partial Crab Landing

完全に機軸を合わせることなく 機軸を半分ほど戻して接地すること。

特に横風が強くTurbulence(乱気流)が有る時、又は雪氷滑走路(Sliperly Runway)の時y有効だと言われています。

4.Full Decrab Landing

接地直前に機軸を合わせると同時にある程度風上に傾け、横風に流される前に風上側の主車輪から接地させる。翼面荷重の重く、慣性力の大きい中型機や大型機に向いている。

以上の4方法が有りますが、やはり機体にも乗員・乗客にも優しい、4番のFull Decrab LandingがJET機の横風着陸に相応しいと思います。現在のJet機は油圧を使っているので大型機も3舵の操縦が軽く、効きが良く瞬時に機体を操作出来ます。私は4番をより詳しく手順を解説する次の5番をお勧めします。Fly by Wire(電気信号を使い舵を駆動する)も軽く操舵は簡単でしょう。若干舵の効きが遅れるきらいがあるようです。少し慣れが必要だと思いますが。

5.Full Decrab One Point Wing Low

横風が強い時は、強い向かい風と同じく接地迄Powerを残した方が安全です。 Flare Landingで説明しましたが、500ft Marker(約30ft)上空から適切なテンポでFlareを継続し、約5秒でAiming Pointを1250ftから1750ftに移行します。この間絶対に傾かないように水平線を意識し、Crab飛行を継続します。地上に近づくに連れ風が弱くなってきます。すると必要なCrab角が減少します。しかし、この場合はバンクを取って修正する必要は無く、その都度風下側のRudderで簡単に修正できます。Flareが適切ならば4秒後1250ft上空(概ね絆創膏の先端)では5~7ft、降下率( Sink Rate)は200ft~250ft/minになります。横風が強くてもGround Effectも十分効いてきます。後2秒残っています。Powerを残しているのでPitchが軽く上がり易いのでより慎重にFlareをします。ここで十分Sink Rateの減少させることが出来たらThrustを Idleにしても良いでしょう。その場合Elevatorで機首を支え、直ぐ風上に2度傾け(Bank)を取り、重心をCenter Lineに置くように機首を十分風上側に確保し、すかさず風下側のRudderでAlign(機軸を合わせる)します。Rudderの動きは軽く効きが非常に良いので、この時Over Controlにならぬように両足でRudderを軽く支えながら操作します。5度~10度瞬間的に機首を風下側に振るだけでヘリコプターの原理で前進翼(風上)側が進み揚力が増え,後進翼(風下側)の揚力が減るので バンク(傾き)が戻ろうとします。そこで水平線を意識してAileron(エルロン)をタイミング良く使いBank2度を厳守します。このままの姿勢を維持していると1秒以内にFirm Landing(Smoothと言うより、しっかりした接地)をします。最後のElevatorの引きが強いとFloating(浮き上がり)して伸び風上側に流れ始めるようだったら若干バンクを取って止めます。そこで風上側の車輪から接地します。水平線を凝視していれば3度以上傾くことはありません。あまり勢いよく傾けると

風上側の主翼がしなり主翼下のエンジンポッドを地面に接触したり、Boundして反対側に煽られる危険性が有ります。注意が必要です。ワン(Elevator)、ツー(Bank)、スリー(Rudder)のテンポです。最後のFlareで十分に降下率を減らせれば余裕が生まれます。しかし、ここで終わりではありません。接地し、Boundしないことを確認したらすかさず ThrustをIdleとし、 エルロンを風上側に適量とり風下側の車輪の接地をSmoothにします。Airbus A300はエルロンを大きく取ってもSpoilerが引っ込まないので90度取っても問題ないのですが、MDシリーズはMax30度くらいに抑えておかないと、風下側のSpoiler角度が少し引っ込む(減る)のでOver Controlになり易く危険です。(機種によりSpoilerとAileronの作動機構が違うので指導層は機種移行の訓練で正しい操作を説明する必要があります)その後ゆっくりElevatorを緩めて前輪(Nose Gear)を下げます。この時風下側のRudderを十分踏み込んで機軸を合わせるのですが、横風が強いと相当踏み込みます。そして、接地寸前に使用している量の半分戻します。その時の量は経験です。約半分としか言えません。そうしないと後方のRuddeと連動した前輪が大きく風下側に向いた角度なので、大きく蹴られてしまいます(逆に離陸する時に前車輪が地面を離れた瞬間に摩擦が無くなり、瞬間的にRudderの空力的力だけでは補えなくなり大きく(倍位に)踏み込む必要が有ります。この場合は自然に機軸を合わせるので必要量は簡単に決まります。その上エルロンもほぼ倍必要になります。昔Lift Off(機体が浮き上がる事)時Double Aileronが必要と言われていました。Pitchゼロの時の揚力係数と機体が浮き上がり始めるPitch10度の時の揚力係数の左右差がほぼ倍になるためです)前輪を接地させてから、軽くElevatorを前に押し前輪に荷重を掛ます。Speedが30kt(このSpeedに特に根拠は無いが、逆に取っておいても損にはならない)になるまではエルロンは風上側にKeepしておきます。量は機種により適量としか言えません。風上側の車輪の荷重を少し多めにして横風の強弱の変化で煽られないように押さえます。エルロンを十分取らないと風上側の主車輪の加重が少なく(浮き上がり気味に)なり、風下側のBrakeの負担が増えてBrake Temp(温度)が上がります。那覇空港で風下側Brake温度が400度Cを越え 左主車輪4本がパンク(爆発の危険を防ぐためフューズを溶かして空気を抜く)した事例が証明しています。機体がピッチゼロでも主翼の揚力は発生しています。そして、着陸時のFlapは離陸時のそれより多くの揚力が発生しています。その上風上側の主翼はより大きい揚力を発生しているのです。

この操作はイメージフライトを十分行う必要があります。そして、低高度になったら常に水平線を意識し、傾きをコントロールし、且つ、Far Endを見て 機軸を合わせる意識を持つことも重要です。Crab Landingや Partial Crab Landingを許すような安易な気持ちに流れず、絶対にしない意識と能力を身に付けて下さい。

操縦桿は軽く良く効きます。エアバスA300-600RはMD-82に比べ非常に軽く良く効きました。

「大男 総身に知恵が回りかね」ならぬ「大男 総身に知恵も良く回る」と良く思いました。