Strong Head wind(強い向かい風)の影響で良くHard Landingが起こります。少し横風の成分が多く又、乱気流も有ります。その理由を説明します。その前に実際に起こった事例を紹介します。

奄美空港Runway03を使用していました。

ノットは海マイルと言い1ノット=1.85km時速です。knotをktで省略し表します。

良く天気の説明やゴルフで使うメートルは秒速です。通常1メートルの風は2倍の数値で2ノットです。この簡単な換算はほぼ正しいのです。

飛行機の通常の進入速度に対して2ノットの横風で1度風に向くと丁度良く直進できます。

 

風は060度12kt、正面から右側30度12ktの正面成分は約10ノット、横風成分は6ktです。空港の右側(東側)は全て海なので気流の乱れは有りません。条件が良かったのでCaptainはコーパイにLanding経験をさせると決めました。計器飛行で滑走路に正対する頃Runwayが見え始めそのまま問題無くLanding出来ると確信しました。その自信、驕りを神は見ていました。

この事例では横風成分6ノットですから約3度右に向き、Crab飛行/蟹の横這い飛行をします。

しかし、風は地上の摩擦で一定の率ではないが地上に近ずくと次第に減ります。

この場合もRunwayに近ずく前はもっと強く15以上有ったでしょう。Crabの角度は5度位は有った筈です。接地迄は少し減っても4度でしょうか。

次にこの風の影響は向かい風でも顕著に現れます。

通常報告されている風は地上近くの風です。そして横風でも説明しましたが、上空から次第に減少します。Runwayの端TH(高度15メートル)では報告の風12ktより若干多く、滑走路に入ると減少量はもっと大きくなります。そして報告されている風の半分になると言われています。と言う事は12ktは5~6kt位になるでしょうし、なると覚悟した方が良いでしょう。

理想のLandingで説明したように5㏏ の減少は、Pitch1度分強、約180フィート/分の降下率に影響します

以上のような原因又は知識をCaptainと共に理解していなかったのです。TH(Threshld)に入って安心したため30フィート位でThrustをIdleにしてしまったのです。

向い風が強い時は、THでSpeedがTarget速度を示していてもSpeedは死に始めている、目に見えず沈み始めているのです。そして、向かい風の急減とPowerの急減で急激に沈みこみました。Elevatorを大きく引きました。接地ギリギリで機首を急速に上げると車輪が反対に滑走路に強くぶつかります。

Elevatorの効きは1秒以上遅れると言われています。通常の接地のPitchより2度高く5度を示していたようですが、 ショックが強くなりました。 そして悪いことに4~5度有っただろうCrab AngleをRunwayの正しい方向に合わせることも間に合わずそのまま接地してしまったのです。

Captainと顔を見合わせました。一寸不安そうな顔をしていました。お客様が降機され、CAが報告に来ると青い顔をして苦しそうでした。そして彼女だけでなく4人全員が腰痛や他の部分も痛いと言い業務が出来そうにないと言うのです。奄美空港、次の鹿児島空港でも代わりのCAが確保できないので鹿児島を経て福岡空港までなんとか乗務をして貰いました。FOは嫁入り前のお嬢様4人も傷物にしてしまったとショボンとなっていたそうです。

CAの座るSeatは折り畳み式で低く、クッション材も薄く貧弱です。CAは細く長い脚を斜めに揃えて行儀よく座っています。そして海側からの風で進入中は気流も良く構えず油断していたのでしょう。

機軸がRunwayの方向に正確に合わないと接地時に腰が捻じれるのです。この捻じれをPilot

は過少評価しています。1.3Gでも腰痛は発生します。接地のショックと捻じれの相乗作用です。結構腰痛レポートが多く出ています。今回は1.65Gだったそうです。

お客様の椅子のクッションはいくらか厚く出来ています。そして足を開いている事も出来ます。 

着陸の垂直加速度を”G”と言う言葉で表します。1.3Gを超えると「一寸失敗したな!」

1.5Gを超えると「お客様に謝りたい!」と思う位のショックです。

我が社はCAの腰痛発生でもCaptain レポートを出しますが、JALはCAの腰痛ではレポート提出をせず、飽くまでもCaptainの判断だそうです。そして、1.5G以下はNarrow Bandの範囲と言う事でなにも問題ないとしています。そして、2.0G以上をHard Landing(我が社は1.8G)として地上教育、Simuratot訓練を行うそうです。全く無駄な、効果の無い教育・訓練をします。それで一件落着です。何時になってもHard Landing は無くなりません。正しいFlareと正確に機軸を合わせる事が出来ないPilotが多すぎます。教えるほうも価値観を持っていなけれ教育効果は有りません。又、Simulatorでは条件が良すぎて同じ条件で続けて数回やっても実戦とは大きく違います。

私の主席GroupのFOが起こしたので、私は自腹で低反発クッションを4枚購入して、副主席と交互に使いCA4人に使用して貰いました。思ったより評判が良かったので客室乗務員の管理者に報告し、そちらから整備本部に要求して欲しいと言いました。すると整備本部の回答は”ノー”でした。つい最近ランバーサポートなるものをシートに取り付けたと言うのです。何か?と確かめるとシートの座席部分ではなく背当部分の低い腰の位置に付いていました。全く役に立つとは思えませんでしたし、CAに至っては付いたことも知らないようでした。もう一つの理由はクッションは嵩張り、Loose Equipment(飛散物)で格納場所に困ると言われました。

それから、約2年後にJALに吸収合併されることになりました。すると直ぐクッションが全機装備されました。JALもHard Landingに苦労しているのだなと思いました。

Pilot全員が悪いのではありません。しかし何割かのPilotの技術不足が問題なのです。若いFO時代にAP/ATSに頼り自分の腕で操縦させて貰えない環境がそうさせているのです。Pilotの技術レベルの底上げをすべきです。 きちんと着陸の理論を教えて実践する機会を与えなければ永遠にHard Landingは無くなりません。Hard Landing Reportを何度読んでも実際のところ何の役には立ちません。

風が強い時はFlare開始後に向い風成分の減少によって飛行機の揚力に必要な

TAS(真対気速度・True Air Speed )は急減します。5Kt/1°(5ノット速度が減少するとピッチ1度上げる必要が有るのです)、又、180~200ft/min(ピッチ1度下がると降下率180~200フィート増加/毎分)の関係が概ね成り立つと言われています。通常の降下率は600~700ft/minです。10ft沈むのに1秒弱です。Elevatorの効きは1秒以上遅れると言われています。しかし、TASが減少し始めて未だ体に感じない沈みが始まるとElevatorが重くなり、ましてPathの下に下がるような沈みを目と体で感じたらもう遅いのです。

風が強い時は通常よりThrustが多く必要です。Weightと風にもよるがWind 10ktではN1が1~1.5%

多くなります。接地まで絶対にそのPowerを絞ってはいけないのです。

6~7秒掛けてFlareをだけで1700~1800ftまでAiming Pointを移動します。 

Aiming Pointの移動は無風時より若干ゆっくり慎重にします。15kt以上の向かい風では、Ground speed(対地速度)が大分遅くなるので、慣れてくると非常にゆっくりと感じます。もっと強くなると浮いていように感じることも有ります。横風成分が少ない時は新人FOの着陸経験に最適です。

1500ft Distance Marker上に掛かると5ft以下になりSink Rateも十分減っています。未だ1秒残っているので最後にPitchを支える仕事が残っています。10kt以上ではそのまま Flare を継続して接地したらIdleです。特にエアバスの様に中型機又は、ANUの高い機種はここで0.5度~1度上げる気持ちで100フィート先に延ばすように少し多めにFlareしてから接地してIdleです。ノーショックで接地出来るでしょう。これをしないと今までの努力が半減します。タイヤのSpinup(地面の摩擦で主車輪が回転始める事)が遅れてSpoilerが立たない時が有るが慌てず少しElevatorを緩めてSpoilerが立つのを確認してゆっくりReverse操作をします。対地速度は非常に遅くRunwayは長いのです。

慎重に6~8秒かけてゆっくりAimingを移動させ、傾けないように水平線を意識させます。そして重要なことは絶対に接地迄Thrust Leverを引かせてはいけません。絶対にTakeover出来ないのです。予め説明(Briefing)しておくことです。  SpeedがTarget Speedより多いとElevatorの効きが良く浮き上がったり高起こし気味になる危険がある。そこで機首を下げることは危険です。Flareを一瞬止めAimingPointを少し前方にして再度Flareを継続します。しかし、その時その時の条件は違うので一概に説明はできません。臨機応変に対処すべきでしょう。くれぐれもThrustは接地迄そのままで、Flareをに専念させることです。又、Flareを止めるのは一瞬に止どめる方が無難です。

このように知識に裏打ちされた危険回避技量を持ったPIC CaptainがFOに着陸させることが出来るのです 。ゆめゆめ「俺は絶対にTakeover出来る」等と自惚れてはいけません!Takeoverに至らないように口で飛ばすのです。たとえFOに口うるさいと思われようが!

Hard Landing Reportの多くは[PFはFO・操縦は副操縦士だった]ですが、PIC/Captainの責任です。でもPIC/Captainの着陸も結構ありますね。

PFとはPilot Fling =現在操縦桿を持って操縦している人を呼ぶ用語 

PNFはPilot not Flingです。Captainでも操縦していない時はこう呼びます。

PIC=Pilot in Comand その飛行機の責任あるパイロット

次にThrusholdから1750ftまでの時間を記します。

  G/S 120 kt      222 ㎞/hr.  61.7ⅿ/sec     202ft/sec     8.9秒

      130 ㏏  240㎞/hr    66.8m/sec   219ft/sec       8.2秒

      140 ㏏  259㎞/hr    72.0m/sec    236ft/sec        7.6秒

      150 ㏏  278㎞/hr    77.1m/sec  253ft/sec        7.1秒

      160 kt  296㎞/hr   82.3m/sec    270ft/sec        6.6秒

      170 kt  314㎞/hr   87.4m/sec    286ft/sec        6.2秒

     接地迄5ノット以上減速するのでこの時間プラス0.5秒位多くかかる。