この本をジャンルに分けるとすれば山岳小説である。
日の出シーン、雪山シーン。
一度でも山に登ったことのある人なら、その景色がまぶたに浮かび上がることだろう。
そしてもうひとつ、人間ドラマでもある。
人生のハンデェイを背負いながら山と向き合うことによって、それを克服しようとする登場人物たち。
自分の生き方がこれでいいのかと、ついつい考えさせられてしまう一冊である。
少し長くなるがあらすじを書いてみた。
写真は今は亡き会社の上司が、ネパールへ行かれた時の写真である。
八ヶ岳で山小屋を経営する蒔本康平、ことパウロさん。
ゴマ塩髭に赤いバンダナ。
無口なのにそばにいるとなぜか暖かく包んでくれそうな、そんな人柄である。
登場人物は≪ブナの大木≫に喩えている。
一風変わった性格であるが、過去にはヒマラヤの八千メートル級の登頂記録を持つ。
しかし何があったのか、そのことは多くを語ろうとしない。
オーナーが変わった性格なら、山小屋に集まったアルバイトの若者3人も、何か問題を持つ人物である。
裕也は今でいう危険ドラッグに頼ることにより、エンジニアとして素晴らしい活躍をする。
しかしドラッグ依存がエスカレートして、ある事件を起こしてしまう。
3人の中ではリーダー的存在だ。
慎二は知的障害者。
でも体力と力は誰にも負けない。
そしてスケッチがうまくて、天気の予想をさせればことごとく当ててしまう。
さやかはアスペルガー症候群という発達障害者。
人にはその人なりの考え方があるということを理解できず、コミュニケーションがうまく取れない。
ただ自分の好きなことには、異常なまでの集中力を発揮する。
さやかはプロ顔負けの料理人である。
4人は人生の負い目を払拭し、これからの人生を自信あるものにするために、ヒマラヤ登山を計画する。
目指す山は標高6720メートルの無名峰。
名だたる8000メートル級の山がいく座もある中で、ロッククライミングができない3人のために、パウロさんが選んだ山だ。
標高は低くても手つかずの未踏峰である。
4人は山の名をビンティチェリ(祈りの山)と名付けた。
パウロさん指導のもと、八ヶ岳や富士山の過酷な気象条件の中で、厳しい冬山訓練が始まった。