呼吸・循環器系疾患、がん治療に光
高齢化やメタボリックシンドローム(内臓脂肪型肥満)などの増加に伴い、肺や心臓を含む呼吸器・循環器系の疾患、がんなどの患者が増え、その治療法が重要な課題となる中、理化学研究所と高輝度光科学研究センターは8月12日、生きたマウスやラットの気道末梢部位や冠動脈の三次元動態観察に成功したと発表した。理研が所有する世界最大級の大型放射光施設「Spring-8(スプリングエイト)」の放射光を光源として開発したシステムによる成果で、英国の科学雑誌「Physics in Medicine and Biology」の8月21日号に掲載される。
理研などによると、呼吸器や循環器系の疾患、がんなどの治療や予防のため、生体を傷めずに病状などを正確に把握することができる高分解能の可視化装置への期待が高まっている。特に、喘息など呼吸器疾患や心不全など心疾患の治療では、複雑に変形する末梢血管や冠動脈の様子を詳細に観察する必要があるという。
理研の生体シミュレーション研究チームは、同センターなどと協力し、従来のエックス線発生装置に比べ1億倍も輝度が高いSpring-8に注目。Spring-8で発生させることができる高輝度放射光を光源として採用し、「高分解能 in vivo-CTシステム」を開発した。
同システムでは、人間の6-10倍も早い小動物の心拍や呼吸のリズムに起因する「モーションアーチファクト(データのノイズ)」を軽減するために、撮影のタイミングを心拍と呼吸とに一致させる工夫を行った。その結果、従来のエックス線装置では撮影することが不可能だった生きたマウスの直径約125マイクロメートル(1マイクロメートルは1000分の1ミリ)の微細な気道末梢部位や冠動脈、大動脈弁の三次元動態を観察することができた。
今までの可視化装置では、細かい部位が全く見えず、小動物に対する薬剤反応を調べる場合、臓器レベルでの評価が「限界」だった。しかし、同システムでは、薬剤の局所的な反応を一本の気管支単位で調べることができる。理研などによると、「開発したシステムを用いた薬剤反応実験、その結果を用いた生体・治療シミュレーションは、生理学や薬理学のほか、治療方針の検討などに幅広い応用が期待できる」という。
【Spring-8】
兵庫県西播磨地域の「播磨科学公園都市」にある施設。放射光(シンクロトロン放射)は、ほぼ光速で進む電子が進行方向を磁石などで変えられた際に発生する電磁波で、遠赤外から可視光線や軟エックス線などを経て、硬エックス線に至る幅広い波長域で放射光を得ることができ、国内外の研究者の共同利用施設として、物質科学、地球科学、生命科学、医学など多様な分野で使われている。
出典:キャリアブレイン