ミュージカル『おとこたち』ーーそりゃ悲劇。だけど、俺は励まされました | オーヤマサトシ ブログ

ミュージカル『おとこたち』ーーそりゃ悲劇。だけど、俺は励まされました



PARCO劇場で「ミュージカル『おとこたち』」を観た。

 

2014年初演のハイバイの劇団公演『おとこたち』が、主宰の岩井秀人の手でミュージカル化された作品。俺は2016年の再演を観ていたが、その記憶は遠い彼方へ…。今回かなり新鮮な気持ちで観た。

演劇は大好きだけどミュージカルには疎い俺だけど、2023年はなぜか縁がありすでに今年2本目のミュージカル。とは言え、1月に観た『ザ・ビューティフル・ゲーム』も面白かったけど、同じミュージカル枠でも『おとこたち』はまた全然違った。本作は所謂ミュージカル然としたミュージカル(例えばシーンの最中にいきなり歌い出すというような感じ)をあえて茶化すというか皮肉るような演出もあって、それを確かな技術をもった俳優陣がやり切るのが面白い。逆に言うとミュージカル感はそんなになかった感じもする。

ただ、実は俺が今回いちばん心を動かされたのは、本作の中でも最もミュージカル度が高いシーンとも言ってもいいだろう、一幕のクライマックス大原櫻子のソロパートだった。

演劇的なモノローグに音階が加わり、やがて歌唱となっていくあの時間、おれはマスク越しでも床にこぼれるほどの涙を流した。すごかった。『おとこたち』と冠された舞台で大原櫻子演じるあのシーンがもっとも心を揺さぶったことは、7年前に再演を観たときと比べて俺のなかでもっとも大きい変化だったと思うし、それは間違いなく大原櫻子という人の表現とあの楽曲のパワーだった。ミュージカルの王道からするとかなりオルタナティブかつ歪な気もするけどそれでも、ミュージカルってすげーなあ…、そう痛感したシーンだった。こう言い切っておく、すごく感動した。

本作の稽古場レポートの記述によると、本作は「悲劇」なのだそうだ(少なくとも作者はそう言ってる)。確かに登場する4人の“おとこたち”が辿る人生は、決してというか全然ハッピーではない。本作を観て彼らのような人生を送りたいと思う人はまずいないだろう。それでも、というか、だからこそ、俺はまさにその悲劇の締めくくりであるラストシーンで歌われた楽曲に救われたし、励まされた。

というのも、本作を観た日はおれの誕生日だったんだけど、ここ最近おれは色々あってひどく落ち込んでいて、なんか、ここまで生きてきたけど、結局いまのところ俺って全然ひとりぼっちじゃん、孤独じゃん、明け透けもなく言うとめちゃくちゃ寂しいじゃん、おれなんか生き方間違えたかなあ……なんかそういう気持ちで迎えた誕生日だったんです。

先月くらいからけっこうずっとそういうメンタルだったので、この状態で観る作品として本作ってどうなんだろう…前観たときけっこうハードな印象もあったし…観て余計落ち込んだりしないかなあ…と若干心配だったんです。

でもラストナンバーを歌う彼ら・彼女らを観ていて、あーそうか、なるほどなるほど、やっぱそうだよな、そうだよね、そうだそうだ、結局ひとりなんだ、じゃあもう、どうでもいいのでは?どうせひとりぼっちになるんだったら、それまで好きにやればいいのでは?と、なぜか謎に元気が出たのだった。それが今の俺にとってよいことなのかはわからんけど、とにかくあのときの、そして今夜のおれの素直な気持ちはこれなのだった。

なんか、7年前の観劇時もけっこう衝撃を受けてたつもりだったけど、まだまだ全然他人事だったんだなあ。あのラストでやる気出るなんて俺の人生どんな人生だよ。まあただのヤケクソなのかもしれないけど。とりあえず2023年の俺にとって、とっっっってもでかい作品でした。観られてよかった。

最後に。1幕ではほぼ歌わなかったユースケ・サンタマリア、2幕での歌唱のすばらしさに驚いた。というかこんなにいい俳優だったんだ。今更ですがファンになりました。というか出てた人、知ってる人も初めましての人もみんなよかった。ステージ上の生演奏も至福。ミュージカルとしても舞台作品としてもかなり変わってるとは思うけど、多くの人が観て色々動揺するべき作品だと思います。東京は4/2まで、大阪・福岡にも回ります。ぜひに。