アイドル×演劇の理想形。『ガチでネバーエンディングなストーリぃ!』感想【Aぇ!group】 | オーヤマサトシ ブログ

アイドル×演劇の理想形。『ガチでネバーエンディングなストーリぃ!』感想【Aぇ!group】



●東京グローブ座でAぇ!group『ガチでネバーエンディングなストーリぃ!』を観た。<ひゃーーーーおもしろかった!こんなに面白いとは思わんかった えらい すごい>。これは観劇直後にメモ帳に思わず残した一文だけど、いま思い返しても実際そういう作品だった。
ラストあたり、まだ物語を続けたがる末澤に対して「や、けっこう満足度高い内容やったと思いますよ?」みたいな小島の台詞があったけど、「たしかにそうだったなあ…」とおれは素直に納得しました。

~あらすじ~

壮絶な死闘の末、ラスボスを倒した勇者一行。世界に平和を取り戻した喜びをぞんぶんに分かち合い、エンドロールも流れ、ではそろそろ解散…となったのだが、主人公の勇者が「まだ冒険を続けたい」と言い出して…。


●いちばん感動したのは、「アイドル舞台」として、そして「演劇」として、それぞれの面白さがとことん突き詰められ、しかもそれがどちらもちゃんと両立・成立していたということだった。
これ、かなりアクロバティックなことだと思うし、だからこそのすさまじい満足感だったのだと思う。

●多彩な演出家や劇団とともに“本気の舞台”を作るテレビ番組『THE GREATEST SHOW-NEN』の満を持してのリアル公演。そのうえヨーロッパ企画とタッグを組んだ時点で、本作を「ちゃんと面白い演劇」として成立させることは言うまでもなく最低条件だったはず。

●一方でメンバー全員出演(というかメンバーのみ)という性質上、「アイドルAぇ!groupの魅力」を観客に味わわせることも否応なしに求められる座組でもある。グレショーではあえてアイドルとしての存在感を出さないアプローチの作品もあったけど、さすがに初の生舞台ツアーでそこまで振り切るのか?という話でもあるし。

●実際、本作ではしっかりアイドル舞台らしく、芝居以外にダンスも歌も、ほぼコントなアドリブパートもたっぷり。「ガチでネバーエンディング」というタイトルに込められた最後のオチも、現在進行形のリアルなAぇ!groupの物語に重ねられた。彼らのファンにとっては、控えめに言って大満足な内容だったと思う(俺はそうでした)

●じゃあ本作はAぇ!groupのファンしか楽しめない内輪向けのアイドル舞台でしかなかったのかというとそんなことは全然なくて、しっかり面白い演劇作品にもなっていた。
で、繰り返しになるけどここで重要なのはやっぱり「にも」の部分で、アイドル舞台としての満足度と演劇作品としての満足度が、どちらもかなり高いレベルで達成されていたのが本作のなによりすごいところなのだ。
で、それを実現させたのは、ヨーロッパ企画とメンバーのエチュードによって生まれたという脚本や演出の力と、6人の個々&チームとしての表現力があったからだ。

●本作の舞台となる、わりと古典的なテレビゲームのPRGの世界は最初からかなりポップかつ戯画的に描かれるので、そこに歌や踊り、コント混じりのアドリブパートが入ってきても全然違和感がなくて、キャラ立ちした6人それぞれの個性が発揮しやすい設定と世界観でもあった。(フルCGが当たり前になった令和でも、わかりやすくゲームを表現するときはやっぱりあのドット絵なのね、というのはちょっと面白かったな)

●とは言え、ただわちゃわちゃしてれば成立するのかというとそんなはずはなくて、むしろ序盤からあの高いテンションを維持しつつ場をグルーヴさせていくには、地に足の付いた舞台役者としての力量が求められたはずだ。それを6人はまあ見事に演じていた。
端的に言ってみんなちゃんとうまい。観ていて危うさを感じる人がひとりもいなかった。

●例えば、序盤で各メンバーが冒険の旅をそれぞれ振り返るシーン。ああいう何気ないけどやることは多くて、僅かなズレで流れを止めてしまうリスクもあるシーンをひとつひとつ着実にこなしていく6人の姿に、「あ、これはいい舞台になるな」と確信したし、その確信は最後まで裏切られることはなかった。

●シンプルに物語もよかった。しばらくゲーム内を舞台に話が進んで、「あれ、でもこれプレイヤーの話が出てこないな」と思い始めたところで現実のゆうやパートに移っていく流れもスムーズ。
個人的に、フィクションにおける物語のクオリティのほとんどって「緩急のつけ方」で決まるのでは?と最近は思っているんだけど、本作はそういう緩急が繊細かつ緻密で見事だった。

●「現実逃避の場としてのゲーム」という位置づけはベタではあるけど、RPGパーティの主人公が旅を終わらせたくないとゴネだす出発点から、実は就職活動の最終面接前日だったと種明かしされるのは捻りがあって面白かったし、現地で俺が見た限り観客のメイン層だった10~20代の方々が観る話としても結構リアリティがあったのかなと思う。(おじさんはあんな圧迫面接ってリアルにあるのか…とビビりました)

●内定が出てもまだゲームを終わらせたくないゆうやに、ゲーム側が「いや終わるよ」「社会の荒波にもまれろ」「続編作ってくれ」と口々に言う流れもよかった。
ゲーム側にはゲーム側の理屈や都合があって、それは一度現実に来てゆうやを救うことができた(=ゼロイチの世界から初めて自分の意思で動いた)という経験を経てもそう簡単には変わらないという、ゲームパーティ側の割とサバサバした感じがなんかフェアで清々しかった。
あと圧迫面接と裏ボス戦が並行して行われるところで、互いがリンクしてそうでそこまでしてない感じも新鮮だった。

●演出でもうひとつ。圧迫面接で折れそうになるゆうやが自らを奮い立たせ立ち向かっていくときに、クリスタルをマイクに見立ててラップをするというくだり。
個人的に去年観たある舞台でのラップの使われ方が、なんというかラップ自体をちょっとアホっぽい・無思慮っぽい感じで揶揄するような使われ方をしててムカついたことがあったんだけど、今回は理不尽な現状に抗う方法としてラップバトルが用いられていて、あの使い方はまっとうでよかったと思う。

●Aぇ!groupの6人については先述の通り、みんなしっかり上手くて驚いた。グループ全員で舞台するとき、特に本作はアドリブコントパートもたっぷりあったのに、ある種のゆるさに一切逃げず、全員でしっかりも面白い演劇を突き詰めていたことは率直に感動した。

●あと笑いがうまい。全編笑いっぱなしだったけど、正門のすべり芸パートでは、誰も笑わない=シーンとしたところで次のくだりに移るという流れなのに、なぜか拍手が起きてステージ状全員困惑しててめちゃくちゃ笑った。観客も笑いのレベル高かったのでは。

●あえて個人で挙げるとするならダントツで衝撃だったのは草間リチャード敬太。歌い出したとき、えっこんな歌えるの!?と驚愕。ダンス含め身体の動きもすごいし。
あとなんといっても序盤のアドリブパート。あれなかなかのカロリーだと思うけど、「よくやってるなあ」と思わせないレベルでよくやってた。あれを何十公演やってたのかと思うと本当にすごい。声の枯れとかよりも、あの場を成立させ続ける表現者としての胆力よ。

●いやでもお世辞抜きに全員よかったなー。小島&佐野も『笑劇』のときより明らかによくなってたし。(余談ですが本作を観たあとだと笑劇がいかにぶっ飛んでたかを痛感…笑劇もあれはあれで続けてほしいなあ)

●アイドル×6人であることと、俳優×6人であること。その狭間で、「この6人=Aぇ!groupだからできる表現」を生み出そうとすること。
グレショーという番組はそれを演劇・舞台という手法で突き詰めていく場なのだと思う。

●で、そこで培われたものを総動員して、「アイドルAぇ!groupだからこそできる演劇ってなんなんだ」というトライアルがガチネバだったのだろう。そしてそれはかなり高い水準で達成されていた。アイドルがやる演劇として、これがひとつの理想形なのではとすら思ったよ。

●Aぇ!groupにとって、俳優としても、パフォーマーとしても、そしてもちろんアイドルとしても、本作を完遂できたことの意義はとても大きいと思う。
同時に、いち演劇好きとしても、いちAぇ!groupファンとしても、いまこのタイミングでこの作品を観られる幸福を噛みしめた、幸先いい2023年の観劇スタートでした。

●最後に。せっかくグレショーという場があるのだから、なんらかのかたちで本作についての放送があるはずと信じているだし、これは番組の意義としても絶対やるべき。あとソフト化・サントラ化もぜひやってほしい。俺も一般発売でやっとB席取れたくらいなので、観られなかった人も多いはずだし…。そして何より、この6人での舞台、これからも続けてほしい。待ってます。