2020年の梅雨、「としまえん」に行って、マジックとブラワーエンジンとサイクロンに乗りまくった
子どものころから大好きな遊園地・としまえんが閉園するので、最後の見納め・乗り納めに行ってきた。
閉園のニュースが出たあととは言え、梅雨時期の平日のとしまえんはガラガラで、乗りたかった乗り物には何度も何度も乗ることができた。もう今後一生乗れないと思うと残念だけど、こんなに乗ったのだから、まあいいかと思うことにしておく。
なかでも特に大好きな3つの乗り物について書き残しておく。
●3位:サイクロン
サイクロンは、まず丸太の形をした車体がいい。都心にしては緑が多い園内を走るときに、この木目のテクスチャが映える。
頑丈なバーを下ろすということはなく、体を固定するのはシートベルトだけ。
そのぶん激しい落下や極端なカーブはないが、いま乗ってもちゃんとスリルと爽快感があった。後半のトンネルも直球かつ意外性のある趣きが楽しい。最後に川にかかる橋を渡るのも、この都市×自然コースターの締めに相応しいあしらいだ。
俺が曲芸のようなアクロバティックなコースターではなく、キャメルバックを基調とした王道のコースターを好むようになったのは、このサイクロンの影響がでかいのだな、と改めて思った。
俺の脳内では、としまえんのサイクロン→よみうりランドのバンデッド→富士急ハイランドのFUJIYAMAが惑星直列しているのだけど、バンデッドやFUJIYMAを知った俺がいま乗っても(いやだからこそ)しっかりと美点を感じられるコースターとしてサイクロンが存在し続けていたことがうれしかった。
●2位:ブラワーエンジン
普段の生活では感じることが少なく、遊園地でないとなかなか体感できない感覚のひとつに「遠心力」がある。
ブラワーエンジンは小さな小さなコースターだ。蒸気機関車を模したブルーの車体は、コースの規模に合わせてやはり小さい。このちんまりしたSLが8の字コースを縦横無尽に走り回るとき、全身にグググッと絶妙な遠心力がかかる。これがたまらなく楽しい。
乗り場近くにあった解説板によると <ブラワーエンジンは、ドイツ鉄道で古くから多くのファンを持つ特急「青いリンドウ号」をもとにデザインされた自走式のコースターです。スムーズな乗り心地でダイナミックな走行感とスピード感が楽しめます> とのこと。
遠い記憶では毎回コースを2周していたと思っていたが、この日は3周していた。閉園前の大盤振る舞いなのかしら、と思った。
家に帰って調べるとやはり基本は2周なのだが、その日のラストランではおまけで周回を追加するサプライズがあったのだとか。そう言われれば記憶を辿るとそんな感じだった気もしてくる。
コースのほとんどはカーブで、そもそも乗り場の時点で特に先頭車両のあたりは、その先のカーブに突入せんとばかりにすでに若干左に傾いていたりする。
最初こそゆっくりスタートするのだが、1周目がおわる頃にはスピードはかなり加速し、そのまま2周めに突入。
普通のコースターなら停まってやっとひと息つけるはずの乗り場を、「ピロピロピロピロピロピロ」という警告音とともに全速で走り抜けていく瞬間の快感ったらない。
スピードは時速36km、しかし体感はそれ以上。急カーブではなかなかの遠心力がかかり、身長178cmの自分などは車体からはみ出た頭がレールにぶつかってしまうのではとビビるほど、見た目以上にスリルも十分。
小学生でも楽勝で乗れる気軽さと、コースターならではの醍醐味が凝縮された、小ぶりながらすさまじい名機だ。
●1位:マジック
遊園地の乗り物に乗って、マッサージを受けている気分になったのは初めてだった。この日3度めのマジックに乗っていたときのことだ。
やはりここでもキーワードは遠心力なのだけど、このマシーンの作り出す複雑な味わいの遠心力に身を任せると、いつもならスリルと快感で興奮状態になるはずの俺の五感と肉体は、なぜだかゆるゆると解きほぐされていったのだった。
としまえんには、回転系アトラクションが充実している。すべて乗ればどんな人でもひとつは気に入るものが見つかるのではないか。
回転系とはその名の通り基本の動作が回転なので、必然的に遠心力がかかるわけだけど、マジックはその回転のかけ方=遠心力のデザインがかなり複雑で、なんとも滋味深い遠心力を味わうことができる。
この、マジックだからこそ生まれる遠心力が、俺はどうしようもなく好きなのだ。
まず中央の軸から4本のアームが伸びており、このアーム自体が回転しながら上下する。そのアームの先にある新たな軸からさらに3本のアームが伸びており、この3本の第2アームも回転する。
第2アームの先には人が乗るゴンドラが設置されており、そのゴンドラ自体も回転する。
全然説明できている気がしないが、つまり上下運動と何重もの回転、さらにスピードが重なり合い、複雑な遠心力を生んでいるということだ。
この複雑な遠心力こそ、俺にマッサージ的なある種の治癒効果をもたらした正体である。すごかったよーあの体験。マジック乗りながらあっへはは~へはっは~とか笑いながら全身脱力してんだもん。一体どうなってたんだあのときの俺は。知るか。マジックに聞いてくれ。
実はこの日、俺はとしまえんにひとりで行った。それは少年時代、家族や友だちと行くと好きな乗り物になかなかたくさん乗れなかった切ない思い出があって、せっかく最後なのだから愛する乗り物に好きなだけ乗ってやる、という思いからだった。
当時、マジックが回転するさまを下から眺めているのが、俺は大好きだった。回るマジックをいつまででも見ていられた少年の日々を思い出す。
そして今回、念願叶っていちばん好きなマジックに好きなだけ乗った結果、アヘアヘ笑いながらナチュラルトリップするという衝撃の事態になった。なんというか、人生色々あるけど長生きするもんだよな、と思う。マジックのあの遠心力をもう味わえないのかと思うと、冒頭では強がって「まあいいか」とか書いたけど、やはり、割と意外なほど、とてもさびしい。
いま気がついたのだけど、公式サイトによると、このマシーンの最高時速は35kmなのだとか。ブラワーエンジンとほぼ同じじゃん。俺にフィットするスピード感なのかもしれないな。
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本当はもっと早いタイミングで、もっと広く有益な情報も入れ込みつつまとめようと思っていたけど、そんなの他の誰かがもっと最適なかたちでやっているだろうし、俺は俺として忘れたくないことを書き留めておこうと思い直し、こういうかたちになった。
俺には大好きな乗り物がたくさんあって、そんなとしまえんが大好きだということを、忘れないように書き留めておこうと思ったのだ。
それにしてももっと書くべきことはなかったのかという気もする。カルーセルエルドラドも素晴らしかったし、フライングパイレーツに俺ひとりだけで乗れたのもいい思い出。マサラのカレーも食えたし、イーグルはやっぱり死ぬほど怖かった(イーグルが拘束具なしなの、いまだに信じられん)。
ちなみに今回書いた3つの乗り物には3回ずつ乗った。誰に気を使うこともなく、ひとりで好きなだけ乗りまくれたので、最後に最高の思い出ができたなあと思う。
というわけで、とにかく、ありがとう、としまえん。大好きな遊園地でたくさん遊べて幸せでした。