ドラッグよりよっぽどタチが悪い3人―シティボーイズ「仕事の前にシンナーを吸うな、」初日を見た | オーヤマサトシ ブログ

ドラッグよりよっぽどタチが悪い3人―シティボーイズ「仕事の前にシンナーを吸うな、」初日を見た

よみうり大手町ホールにて、シティボーイズ「仕事の前にシンナーを吸うな、」初日を見てきた。

五反田団・前田司郎と組み、”ファイナル パート1”と銘打たれた前回公演「燃えるゴミ」がめちゃめちゃ挑戦的かつラスト公演として捉えてもすごくよい出来だったので(詳しくは過去レポ<シティボーイズ×前田司郎=『燃えるゴミ』 最後の3人、最高の3人 2015.6.20>参照)、またいつか気が向いたらやってほしいなーと思っていた俺。

それから2年、今回唐突に発表された新作公演は、超久々に三木聡を召喚したコント1本+ゲストとしてキングオブコントを獲ったコンビ・ライスの単独コントという、ミニマム&イレギュラーな公演。ファイナル撤回? 一度限りの気まぐれ? 色々な思いを巡らせながら、雨雲渦巻く梅雨空のもと、会場に向かった。



月曜夜の大手町はオフィスガイ&レディが闊歩するシュッとした街だった。今回の会場は街の中心にそびえ立つ読売新聞社ビル内の、これまた品のあるホール。ここでコントをやる、しかもタイトルは「仕事の前にシンナーを吸うな、」、そしてそこに集ういい大人な俺たちw

舞台上にはテーブルと椅子が2脚ずつと、下手側に台の上に置かれた電子レンジ。阿佐ヶ谷姉妹の影アナのあと暗転すると、後方の壁がスライドし、大竹さんの息子さんによる生ピアノ演奏がはじまる、贅沢な演出。そして登場したのは大竹まこと、きたろうのご両人。おお、シティボーイズが先手なのか! てっきりライスが前座的な扱いかとばかり思っていたので、いきなり不意をつかれる。

物語の舞台は薬物中毒者の更生施設。大竹が施設の職員、きたろうが新たな入居者として登場する。少しあとに登場する斉木しげるの、場の空気を強引にかっさらっていく謎の引力も健在だ。



円熟というか、熟しすぎて溶けかけているようなゆるさを発揮しつつ、しかし極めて乾いた3人の演技によって繰り出されるギャグは、ひとつ残らず、途方もなく、くだらないw なかでも、ボタンを押すとチキン・ビーフ・シーフードなどの単語が表示される電光掲示板、カレーの具を決める装置かと思いきや…というギャグのひどさには、腹よりも頭を抱えて笑ったw あれをガツンとできるって、改めてすごい。

そんな脳が溶けそうなギャグを連打しつつ、役柄とシチュエーションはシームレスに変化していき、ただでさえシュールな世界観は、舞台が進むにつれ徐々に不安定さを増していく。

同時に物語のなかに放り込まれる、フリスク/粘土でできた縄/妖怪百目のお目目ぱっちりプリクラ/鳩サブレ/スタバのキャラメルマキアート/窓から覗く大仏、などなど、意味があるようでないようなシンボルたちが、世界の軸をさらに狂わせていく。このあたりは三木聡×シティボーイズの独壇場といった感じ。



ドラッグというテーマも相まって、見進めるうちに自分がどこにいるのか・なにを見ているのか、よくわからなくなっていく感じ。ふだん疑いなく見ている目の前の現実って、ほんとにホントなの? 当たり前に思ってる当たり前って、ほんとにアタリマエなの?

トリップするためには、実はシンナーも覚せい剤も必要なくて、笑いと毒があれば、世界の見え方はいくらでも歪んでいく。

俺にとってシティボーイズは、そういうことを身をもって思い出させてくれる存在なのだ。と、天井から降りしきるフリスクに打たれる3人を見ながら、改めて感じ入った。

最後の最後にコントそのものを歪める大竹の痛恨のミス(「察せろよ!」との名言がww)を経て、約30分のコントは終了。シティボーイズ・ワールドに再び浸ることができる幸せを噛み締めた、濃密な時間だった。



どこまでも不定形なシティボーイズのコントのあと、キングオブコントで彼らのファンになったというきたろうの呼び込みで披露されたゲスト・ライスのコントは、若干放心状態だった俺をもガッツリと笑わせてくれる力強いもので、めちゃ面白かった! 最初は意外に思えたこの出演順も、3人からライスのふたりへの「こいつらならきっと笑わせてくれるはず」という信頼の証だったのだろう。終わってみるとすごく気持ちのいいコントラストを生んでいた。(きたろうは「面白いかどうか保証はしない」と言っていたけどw)

再び3人が登壇し、ちょっと長めのエンドトーク。2年前にファイナルと銘打ちながら今回イレギュラーに復活した経緯などには一切触れず、結成当初のエピソードを披露するあたりも、なんとも彼ららしい。(きたろう「お笑いスター誕生は審査員じゃなくてプロデューサーが勝敗決めてた」 斉木「ここで負けるけど代わりにその後出続けられるから、とか言われてた」ww)

人間はよかったことは忘れるのに、嫌なことは覚えている、という話も。大竹曰く、失敗した記憶ばかり覚えているのは、二度同じ過ちを繰り返さぬよう、人間の本能として覚えているようにできているのだそうだ。(大竹「さっきの俺の失敗みたいにな。あれだけフリスクが散らばってたらフリスクで頭が一杯になるんだよ!」ww)



改めてライスを呼び込み、大竹の「またお逢いしましょう」のひと言で退場。生ピアノに乗せてのエンドロール上映中も鳴り止まない拍手にカーテンコールで再び登場した3人、客席に向かってきたろうが「なんでそんなに優しいんだよ!」と言ったとき、一瞬泣けてくるほどウェットな気持ちになって困った。

過去の失敗に頭を抱えて眠れなくなる夜もあるけど、失敗すんのも悪くないよな。

で、ひっどいことも多い世界だけど、人間もそんなに悪くねーよな。

ゲラゲラ笑ったり、なんだかゾッとしたりして、全部が終わったあとでふとそんなふうに思えることも、俺がシティボーイズの舞台を見たくなる理由だったと、最後の最後に思い出した。俺はこの夜のこと、当分忘れないと思う。