前田司郎×山田裕貴『宮本武蔵(完全版)』がすんごい面白くてみんな見たほうがいいよこれ(※終了済 | オーヤマサトシ ブログ

前田司郎×山田裕貴『宮本武蔵(完全版)』がすんごい面白くてみんな見たほうがいいよこれ(※終了済

 

『宮本武蔵(完全版)』、“完全版”という言葉に偽りなしの、充実の内容だった! 正確には完全版というより別モノと言ったほうがよいかも。や、でも完全に別ってわけでもないしなあ。なにが言いたいかというと、すごい面白かったの! 今回の宮本武蔵!

 

 

ストーリーらしいストーリーは特にない。山奥の温泉宿を訪れた宮本武蔵は、そこでさまざまな人物と出会う。その中には、営業トークがうまい男(佐々木小次郎)がいたり、武蔵をいやに慕う人のいい侍見習い(伊織)がいたり、かつて武蔵に義父を殺された過去を持ち血の繋がらない妹(千代)といい仲になっている若い侍(亀一郎)がいたり、武蔵の幼なじみでいい年して侍に憧れている今で言うニート?である温泉宿の倅(狸吉)と結婚した女性(ツル)がいたり。

 

彼らと武蔵の(ほんとうに)とりとめのない会話のなかからしだいに浮かび上がる、宮本武蔵という男の姿とは――(とまとめると真面目な舞台に思えるけど、上演時間の8割くらいはひたすらくだらない会話が続くので、今回も笑いっぱなしだった)。筋はそんな感じ。

 

2012年に上演された五反田団ver.で描かれたのは、今回の1幕、この温泉宿パートまで。つまり後半60分は今回あらたに付け加えられたパートだった。

 

第2幕はいきなり「数年後」というテロップからはじまり、佐々木小次郎が武蔵の名を借りて巌流島で八百長試合を打って出るというストーリーに。ところがニセ武蔵がマンガのような展開で死んでしまい、ついにモノホンの武蔵×小次郎の果たし合いが実現!?と、メジャー公演にふさわしいドラマチックな展開だぜーと盛り上がってきたところで、いきなり冷水をぶっかけられるような急展開により、衝撃と余韻を残しつつ舞台はあっけなく終わるのだった。

 

 

完全版になってのもっとも大きな違いは言うまでもなく、演者が全然違っていたことだ。

 

今回山田裕貴さんが演じた宮本武蔵を初演時に演じていたのは、他でもない作・演出の前田司郎さんだった。前田さんって演技そのものがかなりメタ的なアプローチなので、“宮本武蔵を完全口語体&オフビートで描く”というこの作品のアプローチを象徴するように舞台上に存在していて、めちゃめちゃ面白かった。

 

対して今回の山田さんは、そういうメタ的感覚というよりは、前田さんが描く武蔵をすごくまっとうに演じていて、武蔵のキャラクターがなんというか、きちんと掘り下げられていた。武蔵ってただでさえ流動的な作品のなかで、特に軸足をしっかりもたないとブレブレになってしまう恐れもある人物像で、山田さんが最初からずっと舞台上にしっかりと居てくれなかったら、あのラストシーンはできなかったと思う。

 

 

五反田団って、「え」「あ」「あ、はい」「え、あー、え?」という、間を埋めるためだけにテキトーに発している(ように見える)相槌(実際はすべて台本に書かれている)や、ムダ話が延々続いている(ように見える)中身のない(ように見える)会話の積み重ねによって、「舞台」という場や「演劇」という概念をことごとく脱臼させていきながら、最終的にはこれこそ演劇としか言えない地点に到達してしまうという、ものすごいアクロバティックなことをやっている人たちだ。

 

で今回、前田さん作品に関わりある人も、そうでない人もいたわけだけど、それらを一緒くたに前田ワールドに染めあげるのではなく、それぞれの解釈を尊重し、舞台上に混在させていて、それがこれまでにないグルーヴを生んでいてすごいよかった。ちゃんと五反田団じゃできない表現になっていたし、このメンバーだからやれること/このメンバーがやるべきことがちゃんとかたちになっていた感。その最たるものが、繰り返すけど今回あらたに書かれたラストシーンである。

 

五反田団verでは、ひたすら笑わされたあとで、武蔵が何でもないように寝込みを襲いあっけなく人を殺すシーンで、この作品の背景にあった「死」をいきなり突きつけられたわけだけど、今回はそのシーンを1幕のラストに置き、そこからはどんどん人が死ぬ。2幕で登場人物のほとんどが死んだんじゃないだろうか。

 

その死に様はどれもあっけなく、そこにドラマなどはない。さっきまでそこで生きていた人が、ただ死ぬだけ。そこではっと気づく。これまでの笑える会話も、あっけなく失われる命も、この作品(=前田さん)の中では等価であり、それらをめちゃめちゃ超・客観視点で描いているにすぎないのだ、ということに。2幕が進むにつれて客の笑いがどんどん乾いていくのがひしひしと伝わった。

 

 

だから今回、珍しくドラマチックと言えるシーンが最後に用意されていたのには驚いた。ツルに激しく拒絶され、「自分を守るためにしか人を殺さない」と言っていた武蔵が、彼女に向けて自ら刀を抜いてしまう。そんな武蔵を身を挺して止めるのが、彼に思いを寄せる(と書いていいでしょう)金子岳憲さん演じる伊織だ(金子さんほんっっっっとうまかった。前田さんの金子さんへの信頼が見えるようだった。今回のMVPかも)。

 

この舞台は、武蔵と伊織の決闘シーンから始まる。つまり最初ふたりは殺しあう関係だったのだ。しかし武蔵と行動をともにするうち伊織の中に情がわき、いつしかバディのような関係になっていく。この描き方も前作から付け加えられた部分で、ここが実はすごいでかいポイントだった気がする。

 

だれからも愛されることがない武蔵をただひとり愛した伊織。その思いは浮かばれない運命にある(伊織はゲイであるような描かれ方をしてた。終盤の宿で添い寝するシーン、ゲラゲラ笑いながらも伊織の「…大丈夫?」のセリフが切なかった)。武蔵はツルを、伊織は武蔵を、どんなに求めてもつがならないどうしが、それでもなにかを共有したりする。それがこの浮世というものなのだ。

 

あのラストシーンのあと、ふたりがどうなるかはわからないけど、武蔵の最後のセリフの答えを知っているのはやっぱり伊織なんだと思う。生まれ育ちや身分の差がいまよりもっとシビアだっただろう当時において、このふたりの関係性の描き方には、前田さんの超客観視点のなかにある温かさと悲しみが表れていた気がするなあ。

 

 

最後に。大好きな前田司郎ワールドを、イケメンのみなさんで(別に五反田団のみなさんがイケメンじゃないと言っているわけではありません!!!!!)やってくれて、俺得以外のなにものでもなかった。みなさん演技うまいうえにサービスシーン(ありがとうございますありがとうございます眩しかった)もふんだんにあって、すっかりファンになってしまった。

 

俺、イケメンとそうでない人ってやっぱ明確に違うし、ルックスってなんだかんだすごいでかい要素だと思うの。その意味で今回の作品は、顔がいいひとがやることにもちゃんと意味と意義が与えられていた気がして、そこもすごく幸福な作品だったなあと思う。この作品がDVDになるって、前田司郎作品の入門編としてもすごくいいと思うし、というかこれまでの前田さんの仕事の中でも屈指のできだったのでは。商業作品もうやらないかもとか言わないで、こんな作品ならいくらでもみたいわー。あーーーーおもしろかったーーーーー。最高!!