世間一般は連休だというのに、私は昨日、当番勤務のため出勤した。
仕事とはいえ、比較的落ち着いた一日だったので、安堵しながら帰宅の途についた。
帰宅するなり、私の嫁さんが「お帰り」の声より早く、こう言った。
「ねえ、○○会長さんが…」
私は彼女の口調や表情から、直感的に察した。○○さん(以下、会長さん)は亡くなったんだな、と。
しかし、いくら何でも急すぎる。
会長さんは私が暮らす町の、前町内会長であり、今年からは地域団体の会長をされている。
先週あった娘の運動会では、来賓として招かれていた。特に変わったこともなく、いつものにこやかな表情で、子どもたちの姿を見つめていたのに。
なぜ?
事態がよく呑み込めない中で、嫁さんに聞いた。
どうして亡くなられたのだろうか。
「脳?」
彼女は首を横に振った。
「心臓?」
また首を横に振った。
まさか「事故?」
今度は首が縦に振れた。「この前、新聞に載ってたよね、電車の人身事故…」と言いながら。
近くで電車の人身事故があったという記事は、確かに覚えている。
それが会長さんのことだったとは、全く思いもしない。当然だ。
会長さんが亡くなったことは、隣に住む人でさえ、つい最近まで知らなかった。
葬儀はごく近しい人たちの間で、ひっそりと行われたのだという。
もし周りに知れ渡ったら、大騒ぎになることを親族は考えたのだろう。
人望が厚くて、みんなから信頼されている会長さんだから、確かに大騒ぎになったと思う。
会長さんは、祭り囃子の名手だったから、町内の秋祭りではいつも大活躍だった。
奇しくも今日は秋祭りの日。
もう、会長さんのお囃子は聞くことができない。
そう思っていた。さっきまでは。
ところが生前、会長さんは次の世代に引き継ぐため、テープに自分のお囃子を録音していたのが分かった。
今日は急遽、それを流すことになった。
会長さんはきっと、御輿の傍にいるに違いない。
追記
去年の餅つき大会のこと。ワシら男どもは、早朝から集まり準備をした。薪を割り火をおこして、湯沸しから始める。
ワシらの周りには既に酒が用意されており、当たり前のようにみんなで飲む。
そして餅をつき始める頃には、ワシらは出来上がっており…。
それでも交代で餅をつくが、杵を振り上げる度に酒がまわる。
会長さんも毎年、ワシらと一緒にやる。
嬉しそうに杵をふるう、会長さんの表情がとてもいいので、写真を撮った。
あらためて見るが、本当にいい。見る人が幸せになるようなお顔だ。
落ち着いた頃をみて、家族に写真をお渡しするつもりでいる。