むかしむかし、あるところに、おじいさんとおばあさんが住んでいました。
おじいさんとおばあさんの住むところは、村のはずれにありました。
おじいさんとおばあさんの住むところにも、ようやくブロードバンドがやってきました。
おじいさんはいいました。
「うちも、インターネットを買わないと、時代においていかれてしまうよ」
おばあさんは包丁を研ぎながらいいました。
「いまさらでしょう。それに」
おばあさんは続けます。
「村のはずれのこんなへんぴなところまで、おじいさんの言うブロードバンドとやらがやってきたところで疲れ果ててしまいますよ」
おじいさんはいいました。
「ブロードバンドは疲れんよ、ほれ見ろ、ばあさん、このチラシに最高時速8エムと書いてある」
おばあさんは包丁を研ぐ手を止めていいました。
「おじいさん、残念じゃが、ADSLにそんな速度は出せませんよ。ちなみに、その8エムというのは、あくまでも理論値。8メガbps。それにADSLのようなメタル回線は通信基地局から離れれば離れるほど通信力が失われる距離逓減作用が働きます。通信基地はどこにあるか?村の反対側。港の魚屋さんの向かいの役場の敷地内です。そこからここまで、まともに引ける距離ではありませんよ。途中に高圧電線のある電力会社の変圧所もあれば、線路もある、無理な話ですよ」
おじいさんは言い返します。
「じゃが、時代は、時代はインターネットじゃ、このチラシに、このチラシに書いてある」
おばあさんは至って冷静に言い返します。
「なにに入れ知恵されたかわかりませんけどねぇ、いいですかおじいさん?」
「な、なんじゃ?」
「そのチラシの技術、ADSLは、もうほとんどのプロバイダーが提供をやめていっている古い技術なんですよ。95年から98年、2000年台を支えた技術です。でもね、あれからずいぶんと年がたってしまいましたからね」
「ADSLとやらがダメでも、ISDNがあると書いてある、ほれ8エムじゃのぉて、64と書いてある8倍じゃ」
おばあさんはため息をついていいました。
「それは64キロbps」
「きろ?」
「早い話が、せんぶんのいち」
「じゃが、64じゃ、64と書いてあるんじゃ」
「数字が多いと勘違いするんですよ」
「そ、そんな……」
「おじいさんは知らないかもしれませんけどねぇ、この村には、ずいぶん前から、そうですね、ダイヤルアップの時代から、インターネットができる状態にあったんですよ、」
「うそじゃ」
「いいえ、ダイヤルアップ、ISDN、ADSL、PHS、第1世代携帯電話、第2世代携帯電話通信、第3世代、4GLTEも」
「なんじゃそれは?ばあさん何をいっておるのか、わしにはわからん、ばあさん!」
「おじいさん、ですがねぇ、ただひとつ、光通信だけは、永遠に整備されることが無いんです」
「光通信?」
「おじいさん、1000出せるんですよ。」
「1000?そんなうまい話があるはずなかろう?だまされおって、8エムより2万分のいちとかいうんじゃろう?」
「確かにベストエフォートですから、強くは言えませんけどねぇ、でもねおじいさん、安定して100Mbpsは出せるんですよ。」
「ひゃ、ひゃく……」
「けどねぇ」
「いつ、くるんじゃ?その光なんたらは、いつくるんじゃ?」
「おじいさん、残念ですけどねぇ、この場所には来ませんよ」
「え?」
「もう、来ないんですよ。こんな田舎の、集落からも離れたこの一軒家に、わざわざ引く必要もありませんからねぇ」
「どうして?人間には人間らしい必要最低限の生活を送る権利があるはずじゃろう?」
「おじいさん、冷静になって。今の生活に、おじいさんのいうインターネットが必要ですか?」
「それは……」
「無くて困らないから、今日まで、今の今まで、おじいさんは知らずに生きてきたのでしょう?」
「これから、これから知るんじゃ」
「FTTHもFTPもHTMLもPHPもwordpressもCGIもCSSも、JPEGもGIFもビットマップですら知らずに生きてきたのでしょう?」
「ばあさん、ばあさん!狐に憑かれたのか!」
「おじいさん、そんなこと、知らなくていいんですよ。無理しなくたって、ここには美味しいお米も野菜もある、キレイな湧き水と、鳥のさえずりが聞こえる山々がある」
「ばあさん」
「わたしはね、おじいさん、あなたがいれば、幸せなんです。だから、わたしはね、おじいさんと静かなこの場所で、静かに老いていきたいんです」
「……ばあさん」
「すまなかった、無知で無学なわしが、下手なことを考えるもんじゃないなぁ」
「いいんですよ、おじいさん」
「そういえば、ばあさんはこの村に来るまで、賑やかな村におったといったなぁ」
「もう、ずいぶん昔のことですよ」
「わしにはわからんが、なりわいを、えすいーとかいっておったかのぉ」
「もう、わすれてしまいましたよ、おじいさん」
「ばあさん、ここで静かに暮らそう。昨日とかわらずなぁ」
「おじいさん」
効果音:着信音がなる
「あ、恵子おばさんからだわ、はい、もしもし、あーはい、いつでもいいですよ、気にしないで、はーい、はいはーい」
「おじいさん、恵子おばさんが、また、パンを届けてくださるそうよ」
「ばあさん、その手に持ってるものはなんじゃ?インターネットか?」
「これは、アイフォ、いえ、ただのゲーム機みたいなものですよ。だって、乙女ゲーしか入れてませんから」
-end-
おじいさんとおばあさんの住むところは、村のはずれにありました。
おじいさんとおばあさんの住むところにも、ようやくブロードバンドがやってきました。
おじいさんはいいました。
「うちも、インターネットを買わないと、時代においていかれてしまうよ」
おばあさんは包丁を研ぎながらいいました。
「いまさらでしょう。それに」
おばあさんは続けます。
「村のはずれのこんなへんぴなところまで、おじいさんの言うブロードバンドとやらがやってきたところで疲れ果ててしまいますよ」
おじいさんはいいました。
「ブロードバンドは疲れんよ、ほれ見ろ、ばあさん、このチラシに最高時速8エムと書いてある」
おばあさんは包丁を研ぐ手を止めていいました。
「おじいさん、残念じゃが、ADSLにそんな速度は出せませんよ。ちなみに、その8エムというのは、あくまでも理論値。8メガbps。それにADSLのようなメタル回線は通信基地局から離れれば離れるほど通信力が失われる距離逓減作用が働きます。通信基地はどこにあるか?村の反対側。港の魚屋さんの向かいの役場の敷地内です。そこからここまで、まともに引ける距離ではありませんよ。途中に高圧電線のある電力会社の変圧所もあれば、線路もある、無理な話ですよ」
おじいさんは言い返します。
「じゃが、時代は、時代はインターネットじゃ、このチラシに、このチラシに書いてある」
おばあさんは至って冷静に言い返します。
「なにに入れ知恵されたかわかりませんけどねぇ、いいですかおじいさん?」
「な、なんじゃ?」
「そのチラシの技術、ADSLは、もうほとんどのプロバイダーが提供をやめていっている古い技術なんですよ。95年から98年、2000年台を支えた技術です。でもね、あれからずいぶんと年がたってしまいましたからね」
「ADSLとやらがダメでも、ISDNがあると書いてある、ほれ8エムじゃのぉて、64と書いてある8倍じゃ」
おばあさんはため息をついていいました。
「それは64キロbps」
「きろ?」
「早い話が、せんぶんのいち」
「じゃが、64じゃ、64と書いてあるんじゃ」
「数字が多いと勘違いするんですよ」
「そ、そんな……」
「おじいさんは知らないかもしれませんけどねぇ、この村には、ずいぶん前から、そうですね、ダイヤルアップの時代から、インターネットができる状態にあったんですよ、」
「うそじゃ」
「いいえ、ダイヤルアップ、ISDN、ADSL、PHS、第1世代携帯電話、第2世代携帯電話通信、第3世代、4GLTEも」
「なんじゃそれは?ばあさん何をいっておるのか、わしにはわからん、ばあさん!」
「おじいさん、ですがねぇ、ただひとつ、光通信だけは、永遠に整備されることが無いんです」
「光通信?」
「おじいさん、1000出せるんですよ。」
「1000?そんなうまい話があるはずなかろう?だまされおって、8エムより2万分のいちとかいうんじゃろう?」
「確かにベストエフォートですから、強くは言えませんけどねぇ、でもねおじいさん、安定して100Mbpsは出せるんですよ。」
「ひゃ、ひゃく……」
「けどねぇ」
「いつ、くるんじゃ?その光なんたらは、いつくるんじゃ?」
「おじいさん、残念ですけどねぇ、この場所には来ませんよ」
「え?」
「もう、来ないんですよ。こんな田舎の、集落からも離れたこの一軒家に、わざわざ引く必要もありませんからねぇ」
「どうして?人間には人間らしい必要最低限の生活を送る権利があるはずじゃろう?」
「おじいさん、冷静になって。今の生活に、おじいさんのいうインターネットが必要ですか?」
「それは……」
「無くて困らないから、今日まで、今の今まで、おじいさんは知らずに生きてきたのでしょう?」
「これから、これから知るんじゃ」
「FTTHもFTPもHTMLもPHPもwordpressもCGIもCSSも、JPEGもGIFもビットマップですら知らずに生きてきたのでしょう?」
「ばあさん、ばあさん!狐に憑かれたのか!」
「おじいさん、そんなこと、知らなくていいんですよ。無理しなくたって、ここには美味しいお米も野菜もある、キレイな湧き水と、鳥のさえずりが聞こえる山々がある」
「ばあさん」
「わたしはね、おじいさん、あなたがいれば、幸せなんです。だから、わたしはね、おじいさんと静かなこの場所で、静かに老いていきたいんです」
「……ばあさん」
「すまなかった、無知で無学なわしが、下手なことを考えるもんじゃないなぁ」
「いいんですよ、おじいさん」
「そういえば、ばあさんはこの村に来るまで、賑やかな村におったといったなぁ」
「もう、ずいぶん昔のことですよ」
「わしにはわからんが、なりわいを、えすいーとかいっておったかのぉ」
「もう、わすれてしまいましたよ、おじいさん」
「ばあさん、ここで静かに暮らそう。昨日とかわらずなぁ」
「おじいさん」
効果音:着信音がなる
「あ、恵子おばさんからだわ、はい、もしもし、あーはい、いつでもいいですよ、気にしないで、はーい、はいはーい」
「おじいさん、恵子おばさんが、また、パンを届けてくださるそうよ」
「ばあさん、その手に持ってるものはなんじゃ?インターネットか?」
「これは、アイフォ、いえ、ただのゲーム機みたいなものですよ。だって、乙女ゲーしか入れてませんから」
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