『いえない思いは墓場まで』
言えない
癒えない

登場人物
小河原 涼太
熊野 美沙子
和尚さん


*早朝。爽やかな朝。鳥のさえずりも聞こえる。
*途中から蝉の鳴き声も鳴き始める(程良いところから使ってください)

涼太(N)「自分が死ぬなんて思ってもいなかったっていうと、それはそれで嘘っぽくなるんだけど。」
*土の上を歩く足音
涼太(N)「確かに、おじいちゃんくらいになれば、その瞬間ってのは身に降りかかってくるだろうなんてことは思ってみたりするんだけど、だけど、それにしたって、まさか、この俺が? みたいな状態ってのが、その、いわゆる、死んだっていうこの状態を自分が経験するなんて思ってもみなかった。
実際、死んでみたところで、幽霊になってるわけじゃないし、地に足着いて歩いてる俺がここにいるわけで、ただ、墓の前で目が覚めて、その墓石(はかいし)に、小河原涼太(おがわらりょうた)、享年16歳って掘ってあったわけで。
*歩いて着た先に水道がある。
*蛇口をひねって、バケツに水を出す涼太。
涼太(N)「お寺の時計は5時を指していて、だんだん明るくなってくこの感じは、朝なんだと思う。たぶん間違ってない。水道の蛇口を捻れば水が出るし、顔を洗えば水は冷たいし。それにバケツに張った水には、自分の顔がちゃんと写った。単純に生きてた頃と変わらないけど、こういうのやっぱり有るんだと思ったのは、バケツの水に写った自分のおでこに三角形の白い布が張り付いていたことだった。」

タイトルコール「いえないおもいは墓場まで」

涼太「あのさぁ、俺やっぱ死んだんだよな?」
猫「にゃーーー」
涼太「おでこに白いの着いてるの、わかりやすすぎるよな」
猫「にゃーーー」
涼太「おまえふわふわだな、どこの猫だろ、ここのお寺に住んでんのか?」
猫「にゃーーー」
涼太「せっかく死んだんだから猫の言葉くらいわかるようになってればよかったのにな」
猫「にゃーーー」
美沙子「なにやってんの?」
涼太「おぉ、みさこ!」
美沙子「ちーちゃんこんなとこいたのぉ~、朝ご飯もってきたぞー」
猫「にゃーーー」
涼太「なんだ、見えないのか」
美沙子「なにやってんの?ってきいてんの」
*ビニール袋から取り出した缶のフタをあける美沙子
涼太「え?」
美沙子「ちーちゃんどうぞ、おいしい?そっかよかったねぇ。そんなところでなにやってんの?ってきいてるの。」
涼太「え?美沙子!俺のこと見えるのか?」
美沙子「バカみたいに頭に白い三角つけてなにやってんの?涼太?」
涼太「おぉ!みさこー!」
美沙子「きもい、さわんな」
涼太「えー」
美沙子「今、どさくさ紛れに抱きつこうとか思ったでしょ?この変態!」
涼太「変態ってひどくねぇ、せっかく生き返ったのにさぁ」
美沙子「死に損ないのくせに」
涼太「お褒めに与り光栄でございます、だがな美沙子!俺は死に損ないではない!死に損なってない!無事死んだのであります!おがわらりょうた!享年16歳と3ヶ月なのであります!」
美沙子「ちーちゃんおいしい?そっかおいしーかぁ。なでこしてあげようね、」
涼太「聴けよ!」
美沙子「あ、居たの?」
涼太「居たよ。なんかしらねぇけど居るよ。悪かったなぁこのやろう」
美沙子「あ、ちょうどよかった、死に損なったついでにさ、」
涼太「ぞこなってない!」
美沙子「墓参りするから、手伝って?」
涼太「墓参り?俺の?」
美沙子「は?涼太はそこにいるんだから必要ないじゃん、何言ってんの? またねーちーちゃん」
涼太「なんだよー」
*歩き始める美沙子
美沙子「はい、ぐだぐだ言わずについてくる」
*ついて歩く涼太
涼太「いいじゃーん、幼なじみなんだからよー、せめてさぁ、『りょ、涼太なの?どうして?あなた死んだはずじゃ?ウソよ』『嘘じゃないさ、ほら、おいで、あの日みたいに抱きしめてあげるよ、みさこ』『涼太』『みさこ』『涼太』」
*涼太のせりふ終わりに、蛇口とバケツに水の音
美沙子「馬鹿なこと言ってないで、バケツ持ってきて」
*水は出ている
涼太「待てって、俺、死んだからバケツ持てないんだよ!するって突き抜けちゃうんだよ」
美沙子「はい、水もったいないわよ」
涼太「うぉあぶね」
*蛇口を止める涼太
美沙子「馬鹿は死んでも治らないんだから、おとなしくもってきなさいよソレ」
*涼太のせりふ中にバケツを持つ音がはいる
涼太「なんで、よっっと(バケツ持つ)、俺がバケツ持てるってわかったんだよ」
美沙子「だって、猫撫でてたじゃない。」
涼太「あぁそっか」
美沙子「どっちいくのこっちよ」
涼太「あ、なんか自然と足がこっちに」
美沙子「なんで涼太が自分の墓参りすんのよ、何に手を合わせる気よ」
涼太「いいじゃん、じいちゃんもばあちゃんも、ひいじいちゃんもひぃばぁちゃんも、ひぃひぃじいちゃんも、ひぃひぃばあちゃんもひぃひぃひぃじいちゃんもひぃひぃひぃばあちゃんも入ってるんだからいいだろ?」
美沙子「ひぃひぃ言ってないでこっち」
涼太「ひぃ~重いよぉ」
美沙子「はいはい」
涼太「んだよ、」
美沙子「だって重そうじゃないんだもん」
*ビニール袋から何かを取り出す音
涼太「そうなんだよ、なんか重くないんだよ。すごくない?!」
美沙子「はいはい、よかったねー、やっとモテる男になったねー」
涼太「いえーーい!モテる男小河原涼太見参!1、2。1,2」
美沙子「モテるの遅かったね」
涼太「死してなお!モテる男」
美沙子「正確にはバケツ持たされる男だけどね。ここ」
涼太「美沙子ん家の墓ここだったんだな」
美沙子「ここ3つうちの墓だから、」
涼太「えらいなぁ、」
美沙子「なに?」
涼太「花買ってきてたんだな」
美沙子「あ、これ?」
涼太「うん」
美沙子「うちの庭から持ってきただけ。生えてても枯れるくらいならお墓に供えてきてってお母さんが」
涼太「あぁ、そっか」
美沙子「こっち水いれちゃって」
涼太「ん。」
*花立てと墓に水をかける音
*バケツとひしゃくとか
涼太「こまめに墓参りすんだな」
美沙子「え?なんで?」
涼太「だって、まだ、花あるのに」
美沙子「たぶんこれ、親戚のおばさん。来てると思わなかったから。だけど、今年の夏は暑すぎるから、花もすぐダメんなるでしょ。親戚の人も参ってくれるのに枯れてたなんて情けないじゃない、はい、涼太も手ぇあわせて。」
*バケツ置く音
涼太「はーい」
美沙子「どーせすぐお世話になるんだから、挨拶しといたら」
涼太「よろしくお願いします。そして、美沙子をしっかり見守ってやってください」
美沙子「なんでアタシのことまでお願いしてんのよ」
涼太「いいじゃん、俺死んだんだし」
美沙子「ばーか。」
涼太「なぁ、美沙子?」
美沙子「なに?」
涼太「その花はどうすんの?まだ残ってんの?墓参り?」
美沙子「入りきらなかったから、ついでよついで」
*歩き出すふたり
涼太「どっちいくんだよ?」
美沙子「いいから水残ってんならバケツ持ってくれば」
涼太「どこいくんだよ」
美沙子「すぐそこよ」
*足音が続く
*立ち止まって、ビニール袋から花を取り出す
涼太「なんだよ」
美沙子「なによ?」
涼太「だったら、もうちょっと花残しておいてくれてもよくね?」
美沙子「死に損ないには余りもので充分よ。」
涼太「へぇへぇ、」
美沙子「はい。水やって」
涼太「へーい。わーすずしーい」
*水をまくおと
涼太「うぇーーいすっずしーーーい水きっもちぃーーーー」
美沙子「お墓に水かけたら涼しくなるの?」
涼太「いや、ぜんぜん?」
美沙子「なんだ」
涼太「あ、だまされた?」
美沙子「水終わったらさっさと手ぇ合わせなさいよ」
涼太「へいへーい。『涼太くん、元気でね。私、あなたが居なくても、がんばるから。美沙子、悲しいけど、つらくっても、アタシ、がんばるから』」
美沙子「なにそれ?」
涼太「そーゆーのないの?」
美沙子「ないでしょ?」
涼太「なんでーぇ」
美沙子「よく考えて。涼太だよ?小河原涼太なんだよ?思い出して。ねぇ?小河原涼太に彼女、いた?」
涼太「ぐはぁ、つらい、」
美沙子「彼女いたことある?」
涼太「げぼふぁ!せつない」
美沙子「よく思い出して、涼太、『彼女』なんて日本語使ったことある?」
涼太「三人称単数の女性を表す代名詞だろ?」
美沙子「それ英語」
涼太「ぐぇぼぐふあぁぁぁ」
美沙子「どうやら身に覚えが無さそうね」
涼太「きっと、死んだ衝撃で忘れてるんだ、俺は、生前付き合ってラビュラビュだった彼女のことを忘れてしまっているんだ、くそぉ思い出せねぇ、思い出せねぇよ、きっと彼女のことを忘れたくなくて、忘れたくなくて、自爆霊となって姿を現してしまったんだーぬおぉー」
美沙子「彼女なんかいたことねぇだろ」
涼太「ぐぇぼぐふあぁぁぁ、いやあああ言わないでーーーー、もしかしたらもしかしたら、生前の記憶が封印されてしまっているだけなんだ」
美沙子「今年も自分のお母さんと私からの義理チョコだけだったくせに」
涼太「ふははははははふははははは、残念だったな。今年のバレンタインは、いとこの千代美ねぇちゃんもくれたもんねー」
美沙子「身内じゃん」
涼太「ぐはぁ、や、やられた」
美沙子「バレンタイン、身内は数に、はいりません」
涼太「くそぉ、どうして、どうして死んだ後もこんなふびんな思いをしなきゃならねぇんだ」
美沙子「生き様じゃない?」
涼太「ひでぇひでぇよ、幼なじみってさ、もっとピュアで可愛くてちょっとした瞬間に、『どうしようドキドキしちゃう、涼太のことワタシ好きになってたのかも』みたいなのあるだろ?」
美沙子「……」
涼太「『涼太ぁ、アタシさ、実は』みたいなのあるだろ?」
美沙子「……」
涼太「ねぇ?どうなの?っておーーーいきけぇ!」
美沙子「あ、私に言ってた?」
涼太「他にいねぇだろーが」
美沙子「元気じゃん」
涼太「わりぃかよ」
美沙子「涼太、あのさ、アタシ、実は、涼太のこと、す……す……」
涼太「マジで!」
美沙子「成仏しろよー、いまでしょ?すぅーーっと成仏するとこだったでしょ?もーいっかい死んだんだから空気読んでよ」
涼太「実は、なんなの」
美沙子「すっげぇうぜぇ」
涼太「ひでーなーー、死んだあとくらい良くないっすか?ちょっとくらい優しくしてくれてもさー。我が人生に悔い無し!くらい、すっきりさせてくれてもよくないっすか?」
美沙子「だって、ふつーにうざいじゃん」
涼太「そんなさー、面と向かって言わなくてもよくないっすか?」
美沙子「だって、生前に言えなかったから、アタシ、そんな失礼なこと言えない子だったから」
涼太「うぜー毎日いってたろうが、うぜぇうぜぇって」
美沙子「うん」
涼太「くーーーきびしーねー人生きびしい」
美沙子「えーでもいいじゃん終わったんだし」
涼太「そうですよー終わりました。16歳と3ヶ月。恋すらできず、彼女すらできず」
美沙子「ふられることもなく」
涼太「そう!無敗の王者!」
美沙子「びびって告白すらできず」
涼太「うるせぇよ」
美沙子「マキちゃんに言えば良かったのに」
涼太「え?なんで?言って良かったの?え?それってどゆこと?この無敗の王者りょーちゃんの、この無冠の帝王涼太様のこの俺様の勝利が目前だったってこと?」
美沙子「最近さ、告白されたときにどうやって断るかっていうのをみんなで話してて、」
涼太「それ完全なる敗北しかないじゃないっすか」
美沙子「いけるとか思うなよ、ふつーに」
涼太「まじかー。で、もし告白してたら。マキちゃんなんて言うつもりだったの?」
美沙子「マキちゃんね、『私は、』なんだっけ、セパタクローじゃなくて、そうそう『私は、あなたよりアルマジロのほうが好きだし、」
涼太「アルマジロ?」
美沙子「あなたより、アルマジロに似てるダンゴ虫のほうがまだ、興味あります。』って言うって」
涼太「ダンゴ虫以下かよ!ひでぇな」
美沙子「マキちゃんがね、一生使えるネタになると思うの、俺、ダンゴ虫以下なんだぜ!って」
涼太「ダンゴ虫以下かぁ」
美沙子「ある意味、武勇伝じゃん?そんなの言われたら」
涼太「へこむわー」
美沙子「恵子ちゃんはね、駅前のパフェデートだけだったらOKしてもいいですって」
涼太「それ以外は?」
美沙子「他人か知らない人扱い」
涼太「それパフェ食いたいだけじゃん」
美沙子「よかったね、告白しないで」
涼太「そんなん告白してたら死ぬわ、一生涙でパフェ食えないわ」
美沙子「ちょうどよかったじゃん、そろそろ成仏したら?」
涼太「いやいやいや、死ぬに死にきれんわ」
美沙子「なんで戻ってきたんだろうね」
涼太「それがわかったら苦労しねぇよ」
美沙子「あーあ、短い人生だったね~」
涼太「ホントだよ、つまんねーなー」
美沙子「でも、よかったんじゃない?」
涼太「なにが?」
美沙子「涼太のお父さんもお母さんもお兄ちゃんも優しいし、お葬式だってちゃんとやって、お墓にだってちゃんとはいって」
涼太「そうだな。けど、順番がなー、」
美沙子「順番?」
涼太「ふつーなら見送るほうじゃん?」
美沙子「まぁね、そこは充分に親不孝だったねぇ」
涼太「なんつーかさー、死んで初めてわかるんだよ。あれもこれももっとちゃんとやっとけばよかったなぁって」
美沙子「そうね~」
涼太「宿題もさー、部活もさー、佐々木先生の世界史ですらさ、ちゃんと受けとけばよかったなーって思うわけよ」
美沙子「そう思うだけえらいじゃん」
涼太「馬鹿は死ななきゃ治らないってホントだな」
*足音が近づいてくる
美沙子「もう、言い残すことない?」
涼太「ん~、一個だけある」
和尚「こんなところにもいましたか、」
美沙子「おしょうさん、」
和尚「お話中すいませんねぇ」
涼太「あ、このお寺の?すいませんおじゃましてます」
和尚「ずいぶんと顔色の良い幽霊さんだねぇ」
涼太「すいません」
和尚「小河原さんとこの僕ちゃんかい?」
涼太「はい、ここん家の涼太です」
和尚「あー、この度は」(深々と頭を下げる)
涼太「あー、すいません、おじゃましてます」
*セミの音だけフェードアウト
和尚「美沙子ちゃんも来てたんだねぇ」
美沙子「おはようございます」
涼太「和尚さん?どうして俺はこうやって戻ってきたんですか?」
和尚「黒魔術のせいです。暗黒騎士ダークボッチの伝説によると、七つの星が一列に並びし時、選ばれし勇者が復活をとげるであろう」
涼太「マジっすか?」
和尚「いや、ぜんぜんそういうのじゃないけどね、中学生だったらそういうの好きかと思って」
涼太「好きですけど、高校です」
和尚「あら?もう高校生だったかぁ、ついこの前小学校入ったくらいだと思ってたのに、他人の子どもの成長は早いねぇ」
涼太「なんで戻ってきたんですか?」
和尚「真面目に言うとね、和尚やってますけど私にもわかりません。ただ、時折、こうやってお葬式のあとに戻って来られるかたはいます」
涼太「いるんだ」
和尚「そういう現象を、幽霊と呼んでます。いまは、おどろおどろしいねぇ、うらめしや~みたいなイメージついてますけど、元々は、優麗って、ゆうしゅうでびれいなっていう」
美沙子「そんなキレイな字なんですか」
和尚「帰ってきたときにね、生前より、綺麗に見える人もいるんです。ふたりとも若いから、ほとんど変わらないだろうけどね」
涼太「へぇー」
和尚「ただね、お墓って、聖域なんで、あんなおぞましい「うらめしや~」みたいなのは出ないんです。」
涼太「え?なんで?」
和尚「私たちがちゃんと供養してますから」
涼太「あー」
和尚「お墓で肝試しするの意味ないですからね、そういう意味では一番安全ですから」
涼太「覚えときます」
和尚「それでも、こうやって戻ってくるんですから、よほど、ご本人様が後悔していらっしゃるか、」
美沙子「往生際が悪い、」
和尚「そうかもしれませんねぇ」
美沙子「往生際がわるいって」
涼太「うるせぇ」
和尚「ただねぇ、ご本人様に原因はなくて、誰かが強く願っていらっしゃった場合に、こうなることもあります」
涼太「マジで!俺じゃねぇじゃん」
美沙子「どういう意味ですか?」
和尚「古くから、復活劇っていうのは、もちろん創作である場合もあるんですが、仏教もそうですし、外国の宗教でも、亡くなった人が生き返ったり、仏様が姿を現したりというお話が残っていますでしょう?」
美沙子「こんなのみたいなものなんですか?」
涼太「こんなのっていうなよ」
和尚「明確にそうだとは言い切れませんが、実際にこうしてひさしぶりに目の当たりにすると、そうだったんだろうなぁという気はします」
美沙子「どうやったらこれ、ちゃんと成仏できるんですか?」
涼太「だから、これっていうな」
和尚「簡単です」
涼太「それより、誰に呼び戻されたかわかるんですか?」
和尚「それはわかりませんが、今回は、よくわかりますねぇ」
涼太「な、なんだよ!」
美沙子「おちつきなさいよ」
和尚「あれ?そういうお話をちゃんとしたんじゃないんですか?美沙子さん?」
美沙子「いえ、まだ」
涼太「美沙子?」
美沙子「おちつきなさいよ」
涼太「いやいや落ち着かないって」
美沙子「……だって」
涼太「……美沙子」
美沙子「……うざいじゃん」
涼太「もしかして」
美沙子「和尚さん、やっぱりこれ成仏させちゃってください」
涼太「ちょっと待って」
美沙子「なによ」
涼太「なんか知ってるんだろ?」
美沙子「……だって」
和尚「ふたりとも、後悔っていう言葉は知ってますか?」
美沙子「知ってる」
涼太「後悔しまくってるよ、死ぬ前にあれもこれもやっときゃよかったって」
和尚「こうかいって聴いて、後で悔やむと書くほうを思い浮かべるなら、実行するべきことなんだとおもいますよ」
涼太「ほかになんかあるっけ?」
美沙子「航海。海にでること」
和尚「正解」
涼太「こうかい?」
美沙子「ひろくおおやけにすること」
涼太「あー公開」
美沙子「年末にやってる野球選手とかの契約」
涼太「更改」
和尚「正解。厳密に言うとイントネーションちょっと違いますけどね」
涼太「後悔かぁ」
和尚「専門用語は成り立ちがちょっと変わりますけど、同じ音を持つ言葉っていうのは、やっぱり同じ音を持つべくして持ってるんですよ。長旅になる海に出た先で、海に出なかった場合の人生を思う。そういうときの心の動きと、言葉っていうのは連動しているんです」
美沙子「だけど、いまさら……」
和尚「美沙子さん、もう、いいんじゃないですか?無理しなくてもせっかく二人で話せたんだし」
涼太「……美沙子?」
和尚「今朝もね、涼太君のお墓に花を供えてくれたんですよ。涼太君の葬儀のあと、ちょっとしてから、今日まで、ほぼ毎朝ね」
涼太「……美沙子」
美沙子「……だって、どうすることもできないから。幼なじみなのに、涼太だけ。ずっと一緒だと思ってたから、涼太だけあんなことになって、なのに」
涼太「美沙子、ごめんな」
美沙子「言ったほうがいいんだよね、和尚さん?」
和尚「うん、いってごらん」
美沙子「たぶん、涼太のこと好きだったんだと思う。だって、涙止まらないんだよ?涼太のお葬式あって、信じられなくて、バカとかキモイとかウザイとか言ってたのに、そんなことしか言えなかったのに、涼太いないなんて信じられなくて。」
和尚「ずっと寂しい思いをしていたんだねぇ」
美沙子「ごめんね、涼太、ひどいことばっか言って」
涼太「なーんだ」
美沙子「なによ」
涼太「そんなことかー」
美沙子「何笑ってんのよ」
涼太「和尚さん、俺もさ、今朝目が覚めて、復活してて、一番に考えてたのはさ、美沙子のことでさ、急に死ぬと思わなかったから、だけど、ひとことだけでもいいから、美沙子に謝りたくて、死んじゃってごめんって、そしたら、すぐ会えたし、ふつーにはなせたし、生きてるときとかわらねぇんだもん、だから、だから、なかなか言えなくてさ。美沙子、ごめん、俺死んじゃったけどさ、」
美沙子「バカ」
涼太「俺、美沙子のことずっと好きだったんだ。だから、バレンタインの義理チョコもうれしかったし、」
美沙子「涼太のバカ、なんでわかんないのよ、義理チョコなんかじゃないし、義理チョコなんか手作りしないし……死ぬまで気が付かないかとおもったけど、死んでも気づいてないじゃん、そんなだから、女の子にモテないんだよ」
涼太「いいよ。モテなくて。だけど、美沙子は、彼氏つくれよ」
和尚「ステキな幼なじみですね。ふたりとも」
涼太「あー言えた。和尚さん、悪いけど、俺、もう、成仏する。お父さんにもお母さんにも、にいちゃんにもいろいろ言いたいけど、きりがないから、お墓の前で、おじいちゃんとこ行きます」
美沙子「……待ってよ。」
和尚「涼太君を呼び戻したのは、美沙子さんだったんだね」
美沙子「私、まだ、まだ心の準備できてない」
和尚「大丈夫ですよ、美沙子さん」
美沙子「え?」
和尚「あー、その顔は気づいてなかったんですね、美沙子さんを呼び戻したのは、きっと涼太くんですよ」
涼太「え?美沙子も?」
和尚「そうです。ふたりとも」
涼太「うそ、でも、頭にアレないじゃん?」和尚「美沙子さんは、葬儀の時につけてあげられなかったんですね、きっと」
美沙子「私も、だったんだ」(ほっとして)
和尚「そうです。」
美沙子「私も、成仏できますか?」
和尚「できますよ」
美沙子「そっか、よかった」
涼太「美沙子、いいのかよ?」
美沙子「うん。和尚さん、私のお葬式もやったんだよね?」
和尚「ええ、みんな見送ってくれましたよ」
涼太「美沙子、一緒にいこっか」
美沙子「え?やだ」
涼太「えーそこはさー」
美沙子「うふふふふふ」
涼太「なんだよ」
美沙子「涼太が寂しがるからついてってあげる」
涼太「あーよかった」
和尚「よかったですね」
涼太「やっぱさ、こわいじゃん?ひとりだと?今まで成仏とかしたことねぇし」
和尚「あぁ、おふたりとも初めてですか?」
美沙子「ふふふふふ」
和尚「よろしいですか?」
涼太「はい」
美沙子「はい」
和尚「このアトラクションは、上下左右に乱高下する、急上昇、急降下、急発進いたします。」
涼太「うそぉ」
美沙子「遊園地みたい」
和尚「ふたりとも、しっかり手をつないでください」
涼太「……手」
美沙子「……なによ」
涼太「べつに」
和尚「アナタは神にチカイマスカ?」
涼太「『ちがうし!』」
美沙子「『和尚さん!』」
和尚「元気だねぇ~」
涼太「美沙子、大丈夫?」
美沙子「……うん、大丈夫」
和尚「それでは、いまから、小河原さん家のお墓をちょっとお借りして、ろうそくをつけます。ふたりは手をつないだまま、じーっとろうそくの炎をみててください。」
美沙子「はい」
涼太「はい」
和尚「そのあとで、私が線香を焚きますので、大きく深呼吸したら、線香の香りがします。そうしたら、線香の煙にのって、上へ上がっていきますから、リラックスして身をゆだねてください」
涼太「はい」
美沙子「はい」
和尚「ろうそくをつけますね」
*マッチをする音
和尚「いいですか?」
美沙子「和尚さん、やっぱりさっきのやってください、私、夢だったから」
和尚「本職じゃないですけどいいですか?」
美沙子「お願いします」
涼太「え?なになに?ジェットコースター?」
美沙子「しーーー」
和尚「それでは、えー、おっほん、
 新郎小河原涼太、あなたは
 新婦美沙子が
 病めるときも、健やかなるときも
 愛を持って、永久に(とわに)
 支えあう事を誓いますか?」
美沙子「(小声で)ちかいます」
涼太「ち、誓います」
和尚「新婦美沙子、あなたは
新郎涼太が
病めるときも、健やかなるときも、愛を持って、永久に(とわに)支えあう事を誓いますか?」
美沙子「はい、誓います」
和尚「おふたりは、このあと、空高く旅立ちます。その手を離すことなく、互いを思い、永遠を誓いますか?」
和尚「(小声で)せーの」
涼太「誓います」
美沙子「誓います」
*和尚さんひとりだけの拍手
和尚「おめでとう涼太くん、」
涼太「ありがとうございます」
和尚「おめでとう、美沙子さん」
美沙子「ありがとう、和尚さん」
和尚「ステキな新婚さんですねぇ」
美沙子「もうちょっとだけ一緒にいられたらよかったね」
涼太「大丈夫だよ、上でずっと一緒にいられるよ、ね、和尚さん」
和尚「きっとステキなところですよ、極楽浄土っていうくらいですから」
涼太「だってさ」
美沙子「よかった」
和尚「さぁ、ミロク菩薩様にもお伝えしておきますから、お祝いしていただきましょうね」
美沙子「はい」
和尚「新婚旅行、出発しましょうか?」
涼太「はい」
和尚「それでは、線香をおたきします」
涼太「和尚さん、ありがとう」
美沙子「和尚さんありがとうございます」
和尚「はい、手をしっかりつないで、深呼吸してくださいね~」
*セミの鳴き声がもどってくる
猫「にゃーん」
和尚「無事、成仏……いや、新婚旅行いけましたかねぇ、ミケさん」
猫「にゃーん」
和尚「そうですか。それはよかった」
猫「にゃーん」
和尚「あのふたりはね、交通事故だったそうです。クラスメートの他の子はみんな助かったそうですが、男の子と女の子が互いを庇うようにして発見されたそうですよ。うちのご近所さんでしたからねぇ、」
猫「にゃーん」
和尚「神父さんじゃありませんがよかったんでしょうかね、」
猫「にゃーん」
和尚「ミケさんつれないですねぇ、どこか行くんですか?朝ご飯はいいんですか?」
猫「にゃーん」
和尚「そうですか、さっき美沙子さんにもらったんですね」
猫「にゃーん」(遠めに)
和尚「さて、朝のお勤め始めましょうかね。よっこいしょっと」
和尚「今日は、ずいぶんと青空がきれいですよ」
*バケツを手に持って立ち去る和尚さん

-end-