『十番目の打席に』

  *5回裏*

2年生の夏。
先輩のいたチームが終わって、選手がたった8人だけの野球部になった。
「なにやんの?たった8人で?」
今までの人数でできていた練習が、当然のようにできなくなった。
ノックを打つ人もいなければ、打撃練習も1箇所だけになった。
時々先輩が放課後手伝いに来てくれる。
けれどそれも冬を近くして徐々に減っていった。
「ごめんけど、俺、ちょっと休むわ」
練習熱心だった山田が、練習に来なかった。
慎二は何もできなかった。
宮本が練習中にうずくまった。怪我。数日間休むことになった。
ひとりひとりの心が離れていった。
――あと1年しかないのに。
放課後、慎二はふと足を止めた。
山下が、夏休みの教室に一人残って、机に向かってなにかを書いていた。
「だめだ」
レポート用紙を一枚ちぎって、黒板の方に向かって投げる。
力なく落ちる紙くず。
慎二は考える間も無くそのしわくちゃになったレポート用紙を広げた。
練習メニューがいくつも書かれ、そして斜線を引いて消されていた。
「――慎二か。だめだな、俺、なんにもできやしねぇ」
そう言った山下は、頭を抱えたまま、泣いていた。
今まで先輩に教えてもらって、自分たちでもこなしてきた練習。
その練習メニューに赤色のボールペンで横に引かれた線。
新しいメニューを必死で考えようともがいた山下の残した、
けれど握りつぶすようにゴミ箱に捨てられた紙の山。
「山下、」
そのタイミングで3年の学年主任の教師が来る。
「山下、来年の春の時点で、人数増えなかったら、廃部な。
 お前らも受験あんだから遊んでないで勉強しとけ、な」
最低のタイミングだった。
廃部は決定的だった。

  つづく