「次、おばあちゃんの番だよ!」
そう言って、僕はトランプを差し出す。
おばあちゃんは僕の手元に残った3枚のカードをじっくり見て、それから、1枚のカードを引く。
幼稚園に上がる前くらいだろうか、おばあちゃんといつもババ抜きをして遊んでいた。
覚えたてのその遊びに夢中になる僕。
最後に残るカード。その瞬間のドキドキを今でも思い出す。



  『 最後のカード 』



  *** 9 ***


 @川上紀子 Noriko Kawakami


戻ってくるのにちょっとだけもたついた。
氷水を門脇さんに出したあと、別のお客さんのお通しを出すように頼まれた。
なのにお父さんはのんびりカクテルを出している。
ゆっくりやってるんなら、自分でやればいいのに。
そうやってケチをつけている自分が自分で可笑しかった。


――なんか、門脇さんとこに戻りたがってる。

だから、戻って門脇さんに聞いてみた。
「ねぇ?これって恋かしら?」
門脇さんは、さっきやけどした上あごを気にしながら、だけど、ぼんやり私の手元のカードを見ていた。
「ねぇ?門脇さん?」
そう名前を呼ぶと、我に返ったみたいに、「あ、ごめん」と言った。
ウィスキーをまたひとくち、ちびりとやって「で?なんだっけ?」と私に尋ねる。
私は少し恥ずかしくなってわざと問いを変更した。
「このトランプ、門脇さんの?」
私は数字が門脇さんに見えないように自分のカードを胸に押し当てておいて、門脇さんが持ってる4枚のカードのデザインを指さした。
「そうだよ、俺の」
「ずいぶん古い感じ」
「だろ?」
「まさか、おばあちゃんと遊んでたトランプ?」
私は尋ねてみた。
もし、そうだと言ったら、おとうさんに止められるのも構わずに、レジから5000円札一枚ひったくって、3件となりのコンビニまで行って新しいのを買ってきてやろうと思った。
門脇さんは一瞬戸惑って、だけど、「まさか」と笑って「続き、続き」と言った。
彼は一枚カードを取った。
彼は「あ。」と言ってカードを繰った。
私はわざとらしく「イヒヒヒヒ」って笑ってやった。
けど、ピンチはすぐに来るのだ。
それが、ババ抜き。
門脇さんは、「さぁ、どうぞ」とニヤリと笑う。
私は一枚カードを引いた。
私もニヤリ。スペードの9とダイヤの9が手元で並んだ。


  つづく