「次、おばあちゃんの番だよ!」
そう言って、僕はトランプを差し出す。
おばあちゃんは僕の手元に残った3枚のカードをじっくり見て、それから、1枚のカードを引く。
幼稚園に上がる前くらいだろうか、おばあちゃんといつもババ抜きをして遊んでいた。
覚えたてのその遊びに夢中になる僕。
最後に残るカード。その瞬間のドキドキを今でも思い出す。
『 最後のカード 』
*** 4 ***
@門脇直幸 Kadowaki Naoyuki
「なんでババ抜き?」
紀子さんは、エプロンを畳むと、お客のフリをして僕の隣に座った。
店の一番奥のカウンター席。
僕の隣。つまりは奥から2番目の席。
ここに座って、僕の方を見ていると、紀子さんの顔は入り口から見えない。
もちろん、常連なら気づくけど、そうなれば決まって「今日はお客なの」と笑う。
紀子さんがいるのはたいてい金曜日か土曜日の夜。
忙しくなれば席を開けてカウンターに戻るけれど、今夜まだはそれほどお客もいない。
雨のせいかもしれない。
僕は紀子さんの問いに答える。
「火曜日に、ここに来たとき、それ」
「ポスター?」
「そう。トランプがしたくなってさ、けど、この店には置いてないでしょ?」
「そうね」
僕はカードをケースから出して、数回繰る。
それから、紀子さんと、僕の前に二つの山をつくる。
「でも、なんでババ抜き?」
「ババ抜き知らない?」
カードをゆっくり一枚ずつ配りながらおどけて尋ねる。
「知ってるけど? でも、なんで?」
紀子さんはそのなんで?を繰り返す。
「幼い頃さ、おばあちゃんに相手してもらってたんだ」
「次、おばあちゃんの番だよ!」
そう言って、僕はトランプを差し出す。
おばあちゃんは僕の手元に残った3枚のカードをじっくり見て、それから、1枚のカードを引く。
幼稚園に上がる前くらいだろうか、おばあちゃんといつもババ抜きをして遊んでいた。
覚えたてのその遊びに夢中になる僕。
最後に残るカード。その瞬間のドキドキを今でも思い出す。
そういう光景。
カードを配りながらそういう感じで思い出話を口にする。
紀子さんは僕が話すのを聞きながら、カードを組にして準備をする。
出来上がりそうなタイミングで、
「やっぱり7並べする?」なんてからかうと、決まって「えー」って言う。
その「えー」に重ねて僕が「えー」ってからかうから、紀子さんは「マスター、一本オーダー入りましたー」なんて言う。
マスターもマスターで「門脇くん、助かるよ~」なんて高そうなワインのボトルを僕の前に置く。
からかってるんだか、からかわれてるんだか。
カードを一枚ずつ交互に取りながら、僕は尋ねた。
「紀子さんもやらなかった? ババ抜き?」
僕がそう尋ねると、
「お父さん、相手してくれないんだもん。トランプ嫌いだから」
そう言った。
マスターは僕らに背中を向けるようにして、別のお客と話していた。
つづく