「次、おばあちゃんの番だよ!」
そう言って、僕はトランプを差し出す。
おばあちゃんは僕の手元に残った3枚のカードをじっくり見て、それから、1枚のカードを引く。
幼稚園に上がる前くらいだろうか、おばあちゃんといつもババ抜きをして遊んでいた。
覚えたてのその遊びに夢中になる僕。
最後に残るカード。その瞬間のドキドキを今でも思い出す。



  『 最後のカード 』



  *** 3 ***


 @川上紀子 Noriko Kawakami


お父さんは脱サラしてバーを始めた。
『 BeR Kawakami 』
そのまんまじゃん。って私が笑うと、いいだろ?ってニヤリと笑う。
手作りのBeRは、プロの仕事だった。
若い頃、私が生まれる前、お父さんは舞台の大道具さんだった、らしい。
私が短大を卒業して就職すると、すぐに、お母さんと離婚して仕事も辞めた。
そしてその1ヵ月後には、バーのマスターになっていた。
その店も、誕生してもうすぐ5年が経つ。
お母さんは私の知る限り店には一度も来ていない。
けど、週末、私は時々バーに立つ。
「いらっしゃい」じゃなくて「おかえりなさい」って言う。
嫌いじゃないし、お父さんも楽しそうだから、私は嬉しい。
だから、ドアのベルが鳴ると、「おかえりなさい」って言う。


「おかえりなさい、門脇さん」
私はカウンターの一番端に、箸とお通しを置く。
彼はここにしか座らない。ここに座れるタイミングで店に来る。
「いつもの」
彼は笑って言う。
お父さんは、いつものペースでお酒を出す。
「今日は、ウォッカをベースにライムと、あと抹茶のリキュール。どう?」
彼はひとくちやって、「わるくないね」と言いながら、二口目をやる。
門脇さんの言う「いつもの」は、いつも違う。
違うものを「いつもの」と言ってオーダーする。
お父さんも、門脇さんの一杯目に同じものは出さない。
不思議なお客様。
でも、その一杯目の笑顔のやりとりが、うらやましい。
会話をするわけじゃないけど、お酒を通じて、コトバを交わしてる感じ。
少しあこがれる。
けど、私と3つしか歳が違わないことに驚いた。
「え?まだ28だよ、俺」と笑った。
シックなスーツと、ネクタイの緩め方。手に持ったウィスキーグラス。
なんかそういうのが、絵になる門脇直幸。不思議な男。28歳。
その彼が、今日はトランプを持ってきていた。
「紀子さん? ババ抜きやろうか?」


  つづく