**シーン061 @文雄
台所の使い方を、唯が、景子に教えている。
変な光景だ。
けれど、ごく自然な流れでそこに行き着いた。
日曜日の昼。今朝、病院から戻ってきて、3人で過ごす家での時間。
タクシーを降りて、玄関までのほんの数分間。
母子して、芝居をしている。
それを見ていて、うらやましかった。
母親は、高校生のあの頃の記憶を持って、演技をすることに幸福を感じている。
娘も、高校生の今、演技をすることで、幸せを創りだす。
玄関前で、見慣れたあの空間が、ちょっとした舞台になるなんて思わなかった。
それ以上に信じられないのが、ごく自然な流れに沿って自分がそれに加わってしまったことだった。
その感覚が不思議で、自分が自分じゃないように思えて。
だけど、芝居というものが、確かに今の自分を構築している。
違和感と言えばそうなのだ。
今日まで感じたことが無い感覚。
けれど、確信めいた感覚でもある。
どんな日本語を繰ればいいのかわからないが、だったひとつ脳裏によぎった言葉がある。
――これが『正しい』のかもしれない。
私が、それを避け続けて今日まできてしまったから。
つづく