『 記憶 』
**シーン047 @唯
おとうさんは、リモコンでテレビの音を少しだけ小さくすると言った。
「日下部のおじさん、なんか言ってたか?」
そう言うと、お茶をひとくち飲んだ。
私も隣に座って、お茶を飲んだ。
おとうさんはぼんやりコップを見てた。
日下部さんはいっぱい話してたから、だから、どこから言おうか迷ったけど、口から出てたのは、
「25年間、ずっとやりたかったって」
その一言だった。
おとうさんはまたひとくち飲んだ。
私は言った。
「私はね、日下部さんに、やりたいこと一生懸命にやるのがいいと思うって言ったの。……生意気だったかな」
おとうさんは、コップを見つめたまま言った。
「唯?」
「なに?」
「吉川は――おかあさんは、何て言ってた?」
私は答えた。
「私と一緒。あの舞台、やりたい。って」
おとうさんは「そうか」と言って、お茶を飲んだ。
少し、嬉しそうな顔をしたような気がしたけど、コップに隠れてわかんなかった。
つづく