『 記憶 』


  **シーン040 @景子


「退院しても良いそうだ」
私が喜ぶより早く、行雄が立ち上がって叫んでしまった。
だから、なんていうか、――行雄、よかったね――って言いそうになった。
私はあえて尋ねた。
文雄の目が優しかったから、信じてたけど、だけど、それでも、やっぱり尋くことにした。
「本当に?」
文雄は頷いた。
行雄が「マジでか!」ってまた言った。
文雄が「まぁ、落ち着け」ってなだめると、行雄は椅子に座りながら、充血した目をさらに充血させて、
「よかったな! 景ちゃん!」って嬉しそうに言った。
文雄は落ち着いて、椅子に腰掛けると、静かに言った。
「先生が、定期的な外来検診を受けてほしいって言ってた。週に2日くらい」
私は頷いた。
その方がいい。
肝心の原因がわからないから、経過をちゃんと診てくれる方がいい。
唯ちゃんが言った。
「今日?帰れるの?」
文雄が言った。
「とりあえず、今から帰っても大変だから――」
見上げた時計の黒い針は3時前を示していた。
文雄が続ける。
「唯はお父さんと一旦帰ろう。部屋を片付けて、お母さんの着替えも持ってこよう」
唯が頷いた。
すごく嬉しそうに微笑んだ。
私と目が合って、また、嬉しそうに微笑んでくれた。
笑ったときの目元がなんとなく文雄に似てる気がした。
文雄が言った。
「今日のうちに手続きやら何やら済ませておくよ。明日の午前中には退院できるように」
私が頷くと、優しく微笑んでくれた。
笑ったときの目元が、やっぱり唯ちゃんとそっくりだった。


   つづく