『 記憶 』
**シーン034 @峰島文雄
『世界に羽ばたく舞台演シュチュ家』が来てくれたおかげで、病室がにぎやかになった。
ふと、笑っている自分を含めた4人を遠巻きに見ているイメージをしてみる。
――景子、高校生に戻っちまった。
あの頃と同じだ。
バカなコトを言っては笑い、くだらない話題で盛り上がっては、頬を撫でながら「笑い疲れた」と言ってまた笑う。
――全員、高校生に戻っちまった。
こうやって笑える自分がまだ居たことに、正直驚いている。
懐かしい空気が、新鮮なままでそこにある。
冬の教室。
「ストーブを切って窓を開けるぞ」
そう言う先生。
確かに教室中はブーイングの嵐に包まれる。
しかし、私は好きだった、濁ったような教室の空気に、澄んだ冷たい空気が流れ込んでくる瞬間が。
その空気に似ていた。
記憶を失った景子が、窓を開けたのだ。
病室の前で立ち止まる足音が聞こえた。
ドアをノックする。
「峰島さん」
昨夜からお世話になっている医師だった。
「ご主人、ちょっとよろしいですか?」
私は頷いた。
立ち上がり廊下に出ると、静かになった病室のドアを後ろ手で閉めた。
先生は眼鏡を右手で直すと両手を白衣のポケットに突っ込んで床を見つめて言った。
「峰島さん、」
私は「はい」と短く答える。
先生は顔を上げ、私の目を真っ直ぐに見据えた。
「大変申し上げにくいのですが――」
つづく