『 記憶 』


   *シーン016 @峰島唯


「やっぱり気になるの?」って私が尋いたら、
「気になるでしょ?」って『おかあさん』は言った。
「42歳-17歳だから、リアルに25年経ったとしても?気になる?」って私が聞いたら、
「いや、経ったとしてもね、まだ期末試験受けた実感無いから、気になるでしょ?」って『おかあさん』じゃなくて、17歳の吉川さんは言った。
「唯ちゃんは、気にならない?」って聞かれたから、ちょっと考えた。
「今、試験週間で、3日前なのね?」
「今、試験週間で、3日前。うん」
「そんで、昼寝して、起きたら、42歳って言われてさ」
「そんで、昼寝して、起きたら、42歳……。」
そこまで順番に繰り返してみたら、言ってしまった。「あ、たぶん、気になる」って。
おかあさんは「でしょー!」って笑った。
おとうさんが掛けていた眼鏡を直して、おかあさんを呼んだ。
「なぁ、吉川?」
「なに?」
「ほかにもっと気になることないか?」
すると、おかあさんは少し考えて、
「えっと…、あ、台本」
「台本?」
「私さ、勉強にいまいち入れなくて。ソツコウの台本昨日までずっと読んでたの。ねぇ?文雄、持ってない?」
おとうさんは困って、「いや、持ってないよ、今は」って言った。
だから、もしかしてって思ったから、カバンの中から取りだした。
「私のだったらあるよ?」
そしたら、
「そうそう!これこれ!」
うれしそうに言って、数頁めくった。
「あ、けっこう書き込んでるのね」
とか、
「台詞の言い回しここちょっと変わってる。ほら、文雄、見て」
とか、おかあさんはいっぱい言って。
「もう一回やりたいなー」って言った。
だから、「うん。私も」って言ったら、なんかふたりしてうれしくなった。
おかあさんは何度も何度もページをめくったり閉じたりしていた。
嬉しそうなおかあさんの姿を見て安心したのか、おとうさんが「ちょっと電話してくる」と言って席を立った。
部屋を出ていくお父さんの後ろ姿を見届けて、おかあさんはまた台本に目を下ろした。
俯いて台本を眺めているおかあさんの瞳はキラキラしていて、すごく幸せそうだった。
「ねぇ、唯ちゃん、」
そう言って、ひとつ大きくため息みたいな深呼吸をついて、台本を閉じた。
けれど、左手で愛おしそうに表紙のタイトルを撫でている。
「ねぇ?唯ちゃん?」
キラキラの瞳をこっちに向けて、おかあさんは私を呼んだ。
「どうかした?」
おかあさんは、「うん」と頷く。
「どうしたの?」
おかあさんはまたひとつため息をついて、言った。
「……この台本、素敵。」
そう言うと、キラキラな瞳を一段と輝かせて言った。
「だって、すっごく良い紙使ってるんだもん」


  つづく