***シーン006 @峰島文雄


薄暗い廊下の突き当たりにある長椅子に唯(ゆい)は座っていた。
「唯、」
駆け寄った私は、唯を抱きしめた。
「唯、ありがとうな」
その言葉を聞いて、唯は声をあげて泣き出した。
一緒に来てくれた日下部が言った。
「とりあえず、俺が行ってくる。あと、入院の手続きとかその辺聞いておくから、峰島は一緒にいてやれ」
私は日下部に「すまない」と言った。
少しして、落ち着いたのか、目を涙で赤く腫らしたまま、唯はここまでの経緯を教えてくれた。
「帰ったら、お母さんが倒れてて、台所で。だから救急車呼んで、一緒に」
「お医者さんは?」
「落ち着いたって。倒れてから、あんまり時間、経ってないかもって。だから、」
「うん?」
「だから、大丈夫だろうって」
「そうか」
唯の不安が繋いだ掌から伝わってくる。
--大丈夫だ。
言うわけじゃなく、タクシーの中で呟くように言った日下部の言葉を反芻していた。
「大丈夫だ、きっと。」
唯に言った。だが、本当は私自身に投げかけていた。


  つづく