ちょびっと小説

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こんなん如何でしょうか?

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 天保山へ向かう船はちょうど出たばかりだった。

すっかりペンキの剥げ落ちた木製のベンチが

初冬のやわらかい陽射しをうけている。

ごく自然にそこへ腰をかけた。


 彼女の前髪をゆらす潮風が湖北の女性らしい

透き通った疎水にサクラの花を添えた清潔感のある香りを

そよがせている。

波にきらめく陽光がやけに眩しくて目を細めた。


「すぐそこに見えているのに船で渡らないとダメなんですよ。

近いようで遠いでしょ。」


 隣のベンチでのの字になって寝ていた虎模様の猫が

起き上がり、目いっぱいの伸びをした。


「思ってるほど遠くないと思いますよ、私は。」


 そのころにはもう船が対岸に着いていた。


「私たちも。」


 

 その言葉に心高鳴った。


 

 少し前より暖かくなっていくのが心地よい。

いつまでもここでこうしていたいと思った。


 天保山の岸壁を折り返す船がまたここから出発するのは

二十分ほど後になる。

 土曜日の水晶橋は全く人通りがなかった。

「ここから見る景色が好きなんですよ。」

堂島川の水面に反射した中之島公会堂のライトアップの

明かりが、湖北の女性らしくふくよかな彼女の頬の輪郭を

ぼんやりと浮かびあがらせた。


「あの、また二人で会ってもらえませんか。」

躊躇することはなくなっていた。

一寸の戸惑いの呼吸の後、

「私もそう思ってました。」


普段は市役所の植え込みに居ついている黒い猫が、

その日は珍しく橋の袂までやってきて休んでいる。

この会話を聞いていたのは、この猫だけだった。


御堂筋の銀杏の落ち葉の絨毯の上を歩きながら考えた。

もう迷うことはない。真っすぐ進んでいけばよいのだ。


ただ、二人がいる場所から難波駅まであと二キロほど

歩かなければならないようだった。

 谷町筋から口縄坂へ向かう路地へ入っていった。

坂を上りきったところで振り返り、西の空を眺めた。


「こんな所から、こんなきれいな夕日が見られるんですね。」

湖北の生まれで色白の彼女の顔が冬柿色に染まっている。

見とれていると、寺の飼い猫が足元で頭をすり寄せてきた。


 それに気をとられていると、彼女は袖の肘の辺りを

少しだけの力で引っ張って、はにかみながら微笑んだ。

「私だけ見ててくれないとダメですよ。」


 その場で恋におちてしまった。


 この界隈を夕陽丘というらしい。