英詞考2 | オダギリユウスケ的 

英詞考2


岬

前回(といっても相当前だけど)に引き続き、洋楽の日本語訳を試してみたい。
課題は同じくArctic Monkeys(それしか知らないのか、と聞かれるとちょっと回答に詰まる)の4枚目のアルバムからタイトルソングである「Suck It and See」。


動画;
https://www.youtube.com/watch?v=TlYJKfunfC0


英詞;
http://www.metrolyrics.com/suck-it-and-see-lyrics-arctic-monkeys.html


で、僕の日本語訳;


***************


きみの愛は鋲を打った革製のヘッドロックみたいだ
そのキスは雨の向きをも変えてしまう
きみは缶入りのダンデライオン&バードックよりも稀有な存在
それに比べたら他の女の子たちはドリンクバーのジュースだ


さあ、味わってみよう

意外とイケるかもしれない

ぼくが出て行く前に隣に座って
ホラー映画で女優をバラバラにするみたいに

残忍に扱ってほしい
大丈夫、ぼく、きみに狂ったアホだから


痛む心を注ぎ込んでポップソングを作るんだ
でもどう書き出していいものだろう
きみさ、それじゃ女ってより銃身を落としたショットガンだよ
もちろんぼくはその銃口がこっちを向いてることを願ってるわけだけど


さあ、試してみよう
じゃなきゃわからないでしょ
ぼくが出て行く前に隣にきて
ホラー映画で女優をバラバラにするみたいに

残忍に扱ってほしい
ほら、ぼく、アホだから……


ああ、いにしえの楽園からやってきた蒼き月の天女たちよ
どれだけきみたちを探したことか
ねえきみ、顔が語っちゃってるよ
「あたし、あなたの心をめちゃくちゃにするために生まれたの」


うん、試してみよう
意外とイケるかもしれないから
ぼくが出て行く前に隣に座ってよ
ホラー映画で女優をバラバラにするみたいに
残酷な扱いで全然オッケー
えっと、あれだ、ぼく、きみにメロメロのアホだからさ


***************


ドMソング、と言ってよい気がする。
ただし、それが肉体的な話なのか、精神的な話なのかははっきりしないので、どちらにも受け取れる(MVはわりと肉体的な感じな仕上がりを見せているけど)。
ひどい扱いを受け、表層的には傷ついていても、その奥底で暖かな光を感じてうっとりとくつろいでしまうM男の本質が、歌詞、構成、サウンドメイキングにきっちり表れていて、さすがだなあ、と思う。
まあ、とは言え、フェティッシュなSM趣味の話ではなく、あくまでも男が普遍的に持つM性を歌った歌だ。

多くの男性にとって共感できる部分が多いはずで、けっして排他的な内容ではない。

MVの構成や、そこに登場するドラマーのマットの風体を考えると、本当はもうちょっとマッチョな印象の訳がいいのかもしれないけれど、そこはあえてやさ男風にしてみた。


アルバムのタイトルでもある「Suck It and See」は「試してみなよ」という意味の英語表現である。

元の意味が「Suck(吸う)」して「See(様子を見る)」しろ、ということなので、歌詞にも少し飲み物関係の単語が出てくる。

まずは「You're rarer than a can of Dandelion and Burdock」というくだりだが、この「ダンデライオン&バードック」とはイギリスで売られているタンポポとゴボウを原料にした(名前のままだが)飲み物で、普通の人の感覚だと変な味がする(らしい。僕は飲んだことがない)。
どこにでも売っているわけではなく、ちょっとマニアックな、人を選ぶ飲料というわけだ。
去年ロンドンに行ったときにスーパーで探してみたけれど、「メトロ」系の街中スーパーでは売っていなかった。
とにかく、そんな奇妙で手に入りにくい飲み物よりもきみは珍しい特別なタイプだよ、と言っているわけである。

それに対して「those other girls are just postmix lemonade」と歌詞が続くわけだが、この「postmix lamonede」は原液と炭酸水が別になっていて、注ぐときに混ざって完成するタイプのジュースである。

そのままだと伝わりにくい可能性があるので「ドリンクバーのジュース」と訳してみた。
技術的にはファミレスによく置いてあるドリンクバーの機械はこのポストミックス式のはずだ。
イギリスではよくパブでそのまま、あるいは割りモノとして提供される。
バーマンがシャワーヘッドのようなマシンでコップに入れてくれるのだが、ポイントはとにかく安っぽく、どこにでもある、ということだ。


このアルバムはかなりアメリカを意識して作られていると言われている。

歌詞の単語も狙っているのかな、というものがある(ここで言うと「Horror movie」とか)。
それなのにあえてイギリス人の日常を髣髴とさせる飲み物を引っ張り出して対比に使うというのはなかなか興味深い。
この曲ではないが、同じアルバムの「Black Treacle」も同じだ(これはイギリス人には馴染み深い廃蜜糖のこと)。
ちなみにいうと「Lemonade」もイギリスとアメリカで意味が変わる。

イギリスではいわゆる三ツ矢サイダー的な透明の炭酸飲料を指すが、アメリカではレモンを絞った混濁した飲料を指し、これはどちらかというとイギリスで「Bitter lemon」と呼ばれる飲み物に近い。

おそらく本気でアメリカ風を狙ったというよりは、ある種の皮肉というか、パスティーシュなのだろう。

だからわざとらしいまでにところどころイギリス的な要素を放り込んで、彼らのアイデンティティを主張するのだ(MVにも実にわかりやすく星条旗とユニオンジャックが登場するし)。


訳す上で少し悩んだのが「Blue moon girls from once upon a Shangri-La」で始まる箇所である。

考えた結果、その前の「I am a fool for...」で止まる詞を受け、おしゃべりが止められてM的快楽を享受しているということなのだろう、と結論した。

そしてその幻覚の世界にふと現実の「きみ」の顔が現れて「Baby, I was made to brake your heart」となるわけだ。


実は、まったくの推測だが、この曲、さらにはもしかするとアルバムタイトルも「You're rarer than a can of Dandelion and Burdock」という一節から生まれたのではないか、という気がしている。
この箇所は歌詞の収まりがとてもよく、選ばれている単語も考えながら当てはめた、というよりは「降りてきた」という感じがする。

きっとメロディも一緒に。

恐ろしくシンプルなコード進行ではあるが、頭のなかでローテするし、柔らかく深い印象をもたらす佳曲だと思う。

もしかすると、単に僕のM的な性質に呼応しているだけなのかもしれないけど。


ちなみに、ボーカルのアレックス・ターナーの弾き語りバージョン(うーむ、セクシー);

https://www.youtube.com/watch?v=H9svkVZ32Cg


<画:岬>