今日も昨日と似たような朝。


違いといえば、昨晩シフトの作成に時間がかかり、少し睡眠が短かったぶん体が重い。

重いというよりか、芯が鈍っているような、そんな感覚。






そういえば今日、新しいスタッフの面接だったよな。

電車に乗り込んだ後、社用のスマートフォンを取り出す。


応募者の履歴書を見る限り、この会社で活躍するには少し経験が足りないように思う。

ただ私の上長はこの応募者をいたく気に入っており、何かとプッシュしてきている。

「面接で今まで聞いたことないようなサービスに対する理想論を話してくれた」とかなんとか。

私は苦笑してしまった。


今までにない発想とは、私が思うに2つある。

未だかつて実現できたことのない桃源郷を机上で語っているか、経験値不足によるリスク回避ゼロ・ハイコストの提案か。

大抵は、そのどちらかだ。

スマートフォンをスクロールする指が、少しだけ重くなる。





朝の電車は大抵座れない。

電車の揺れに合わせて、パソコンの入ったショルダーバッグも揺れる。

通勤服として愛用しているグレーのスラックスは、ショルダーバッグが擦れる部分だけ微かに摩耗していた。

数週間前に生地の痛みには気がついていたが、まだ買い替えるほどではない。


通勤時に着る服なんて、私以外誰も見ていない。誰かに見てほしいなんて気持ちも、とうの昔に無くなった。










職場に到着すると、部下たちのカラッとした挨拶に救われた。

「マネージャー、おはようございます」



早番のスタッフが全員に声をかけて店奥に集め、朝礼を始める。

昨日の商況、今日のお客様とのアポイント、予算、キビキビと報告している。


我ながら、良いスタッフを集めたなぁと誇りに思う。

ふと、朝礼に参加している1人のスタッフに目が止まる。


「岸山さん、寒いですか?」

そのスタッフは、右手の指先で左手をさすっていた。


「いえ、違います。先程塗ったハンドクリームが気になって、、すみません」

岸山さんは俯きながら小さな声で弁明した。


「それなら、良かったです。では続けてください」


その後滞りなく朝礼は進んだ。

最後に早番のスタッフ--田中さんが私の方に向き直りこういった。


「では、マネージャーお願いいたします」


「少し肌寒くなりましたが、お客様は冬に向けてのお買い物でワクワクしてらっしゃいます。まずご来店いただいたことに感謝し、お客様にとって最適なお品をご案内し、サプライズのあるサービスを提供してまいりましょう。宜しくお願いします!」


私はいつも通りの挨拶をした後、面接に向かう準備のために、バックヤードに移動した。