バックヤードに向かい、印刷した履歴書と面接確認事項のリストを手に取る。
この面接確認事項のリストは、つい1年前に更新された新しいものだ。
以前のものには
「人生で最も尊敬する人は誰ですか?その理由も教えてください」
「休日の過ごし方を教えてください」
という質問が当たり前のように羅列していた。
しかし、今のものにはそのような類の記載はない。
会社の方針が変わりDE&Iが促進されたことにより、個人の思想やプライベートを聞かないという姿勢が強くなったからだ。
仕事場の相手に知られたくないことのひとつやふたつぐらい、誰にだってある。
もちろん私にも。
しかし一方で、候補者のプライベートを聞かずして、どうやって資質を見抜けばいいのか。
その答えは未だ出せずにいる。
2枚の紙を、会社名がデカデカと書いてあるバインダーに素早くしまう。
ポケットから取り出したハンドミラーを見ながら、れんが色のリップを取り出し唇をなぞる。
面接者は会社の顔。
人事部が研修で毎回言うセリフだ。
もっとも、私もその通りだと思っている。
今日の候補者は若年層だから、深みのあるリップで落ち着いた雰囲気を。
新しい候補者と出会うたび、これからの自分の未来への希望を信じて疑わないそのまっすぐな瞳から、つい目を背けたくなる。
この気持ちがなんなのか、私にはわからない。