日を改めて、歩くこと数度。




セレクトショップを何軒か回りました。






ちかくにかわいいカフェを発見したりして、
ついでに立ち寄って、意味もなくチャイとか飲んだりして。



隣のカップルの会話をふんふん、って横聞きしてみたり。
ついでに本屋さんでコアな漫画買って帰ったり。






そんなこんなでいろんな寄り道をしつつ。




・・・というか、地味に寄り道のほうが楽しかったり。









セレクトショップってゆうのも、
おもしろいもんだなぁ、
ということが見えてきたある日、

・・・ようやく、これっ! と思える革財布を無事発見することができて、
それを購入するにいたりました。





いい革でした。
少し堅めの革で、明るいブラウンで、先輩が好きそう。


デザインもかっこいい。カッティングが絶妙で、

聞くと、製図並みのミリ単位で作ってるそうです。



プレゼント包装をしてもらって、
ニコニコしながら、それをもらって帰りました。











・・・・で。
いま、その紙袋が家にあります。



ソファの横に、ちょこんと置いてある白い紙袋が、
お茶を飲んでいるときや、
洗濯をたたんでいるときや、
着替えているときなんかに、
視界に入ってきます。






そのたびに、なんだかとても嬉しい気持ちになります。









はやく、渡したいなぁ。




先輩が気に入ってくれるかどうかは、わかりません。
きっと喜んでくれるといいなぁ、とは思うけれど。








紙袋を見るたびに、不思議と、自分がプレゼントをもらうような、ワクワクした気持ちになるんです。




包み紙を開けるとき、先輩はどんな顔で開けてくれるんだろう。




趣味に合うといいなぁ。













転勤しても元気でいてください、って、ちゃんと言わなきゃ、とか、


いつも陰でそっと助けてくれてありがとう、って言おう、


・・・とか。










言いたいことなんて、やまほどあるんです。



やまほどあるのに、うまく言葉にならない。










気の聞いた文句をいっしょうけんめい探そうとするけれど、
どう言えば、ありがとうって伝わるのかなぁ。



ただただもう、会えなくなっても、元気で、そして幸せでいて欲しい。


そんなふうに考えていると、
先輩の笑顔を思い出しました。









いつも、お日様みたいな顔で笑うのです。


目尻いっぱいにシワができて、若いくせに髪にもう白髪がまじってたりして、
もともと大きい口が、さらに大きくにーっとひらいて、
見てるこっちまでしあわせになってしまうような、
ほんとうに嬉しそうな顔で、笑うのです。





目尻のしわの中に、瞳がうもれてしまいそうな、輝く笑顔。

















あの笑顔が見たくて、私はこんなに必死で財布をさがしたんだなぁ、と気づきました。



初めて患者さんに採血するとき、

緊張してしまって必死になってた私の表情を見て、

患者さんは不安そうにしていました。



それをすばやく察知した先輩は、

さりげなく横に来て、

患者さんに冗談交じりに話しかけてくれていました。



そのおかげで私は、うまく採血することができました。








先輩の書いたカルテを見ると、
いつも、必要最小限を書いてあるのです。




私が書くと、いらない情報までダラダラ書いてたり、
必要なことを書き漏らしていたり。



たった一つしか変わらない先輩は、こんなにきっちりと書いてる。
驚いてばかりでした。
自分があと一年経ってこんなふうになれるかというと、とてもそんな自信はありませんでした。







患者さんが来たら、おひさしぶり! って、

相手の名前を呼びながら笑顔で挨拶する先輩。


一度見た患者さんは、ちゃんと名前と顔とを覚えているのです。


そんな先輩だからこそ、患者さんにはとても人気があります。
きっとむこうの病院でも、みんなに好かれるんだろうなぁ。











ささやかな贈り物だけれど。

苦労して、探しました。
歩き回ったけれど、おかげで革にはやたら詳しくなったし、
セレクトショップも、カフェも発見できた。


人づきあいのよさって、こういうところにもあるんだなぁと思いました。
あたらしい発見や、それをみつけた喜びがあって、その人のおかげで自分の世界がまた少し広がるのです。
こんな楽しいことはありません。

部屋の隅の、ソファの隣にある紙袋。
来週の送別会のときに渡すのが楽しみです。