「見て、これ・・・」


と、彼女は私に後頭部を見せました。


うさこ
「? なに?」


きれいなイエローゴールドに染められた、
ストレートの長い髪。
その髪を束ねている髪留めに、
見覚えがありました。







ちょうど一年前のセンター試験の直前に、
彼女は、ひどい風邪をひいてしまいました。


友達の妹です。


お見舞いに行くと、彼女はベッドで寝込んでいました。






うさこ
「試験前やのに、エライことになったなぁ・・・」

彼女
「そぉやねん・・・めっちゃブルー。サイアク。試験までに、治るかな」

うさこ
「治る治る!! カゼなんかに負けてられへんよ!」

彼女
「そーよね。なんとか治さないと」








薬学部を志望しているのに、
数学がニガテらしく、
彼女の机に積んであった「チャート式 数学」は、
ボロボロでした。

中には、ぎっしり赤線と蛍光ライン。






彼女
「なんべん解いても解かれへん。いやになるよ」






30分ほど話をして、


「じゃあ、そろそろ帰るねー。
 早く治るといいね」
と言って、部屋を出て行こうとしたとき、













「・・・それ、カワイイねぇ」












私のつけていた髪留めでした。









「・・・いいな、それ。めっちゃカワイイ。私もそういうのほしい」


笑いながら彼女がそう言いました。




うさこ
「じゃあ、あげるよ。・・・新品じゃないけど」

彼女
「うそっ!! マジ?」


飛び起きそうになる彼女。





「ありがとう!! これ、受験のお守りにするわ!!」



















あれから、一年。



大学生になった彼女は、
相変わらずのやさしい丸顔で、


今年、私に直接、年賀状を手渡しに来てくれました。



彼女
「私・・・去年、ほんとうにうれしかったんよ。
 あのときは、ありがとう」
 





そう言われて、一瞬なんのことかわかりませんでした。



しばらくして、やっと髪留めのことと気づいて。



彼女
「オマモリのおかげで、合格できたしね」

うさこ
「ははは。いっしょうけんめい、勉強したからだよ」








彼女
「うん、ありがとう」














ありがとうと言ってくれた彼女に、
ありがとうと言いたくなりました。







髪留めをあげたことなんて、忘れていたけれど、
彼女はちゃんと覚えていてくれたのです。











人間って、自分がしてあげたことは覚えているけれど、
してもらったことは忘れてしまってたり。

逆に、傷つけられたことは覚えているけれど、
自分が傷つけたことは忘れてしまっていたり。



勝手な生きものです。












でも、


彼女は「ありがとう」と言ってくれました。










私は、たいしたことをしたわけでもないのに。













自分がいろんなことを出来るようになるにつれ、
ひとへの感謝を忘れていきます。













今年の干支は、イヌです。


イヌは、三日えさをあげると一生その恩を忘れない、といいます。








私もイヌになりたい。





してもらった恩を、忘れない、イヌになりたいです。






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最後まで読んでくださって、ありがとう。
読んでくださってるみなさまに、感謝です!!


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