越前守は、大将夫婦が帰ると聞いて、亡き大納言が「差し上げなさい」と分配した遺品や、荘園の地券を持ってきて、
「とるにたらぬ物ですが、亡くなった父が言い置いたことでございます」
と差し出した。
大将が見ると石帯が三つあり、うち一つは自分があげたものだった。残りの二つは、自分があげたものほど立派ではなかった。
荘園の地券は、この故大納言邸の図面と一緒に渡された。
大将がいぶかしんで
「悪くない土地をお持ちだったのだね。この家まで下さっているけど、どうして大納言のお子様や北の方に差し上げなかったのだろう。ほかに別宅でもあるのですか?」
とたずねると、女君は
「いいえ。でも、北の方や兄弟姉妹の方々はずっとここに住んでいるのですから、取り上げるようなまねはしたくありません。北の方に差し上げたいと思っています。」
と言うので、
「それが良いでしょう。この屋敷をいただかなくたって、あなたには私がいるんです。三条邸にいればいいんです。もしこの屋敷を取ったりすると、北の方や兄弟の恨みを買うでしょうから。」
と二人で語り合って、大納言邸は受け取らないことにした。
越前守を近くに呼び寄せて、
「この遺産分配のことは、あなたもご存知ですね。どうしてこんなに、私たちのほうにばかり偏っているんでしょう。権力がある家だと思って、気を使ったのですか?」
と笑うと、越前守は
「そうではありません。全てはみな、父上が亡くなる前に分配して、私に預けたとおりです。」
という。」
* * * * *
さて、大将はここで初めて女君が受け取った遺産の内容を知ります。
どれもこれも蓋を開けて見れば、自分が持っているものほど良いものはありませんが、悪くないものばかり。
ただ、大将にとっては大したものでも無くても、故大納言の一家にとっては一つ一つが大したものです。
女君は、屋敷だけは何が何でも相続放棄をするつもりのようです。
何せ、死ぬ前からいさかいの種になっていましたからね。
大納言にとっては「私が死んだあとも家族を頼む」というつもりだったようですが、このひいきはさすがに不自然すぎたようです。
↓大将の力でも、子供たちの大納言越えは難しいでしょうけれど。
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