衛門は人脈をたよりに、源中納言家にいた美人な女房達を二条邸に呼び寄せさせた。

侍従の君という、北の方つきの女房でとても美しく、源中納言家で一番の才覚の持ち主に始まって、三の君つきの典侍(すけ)の君、大夫(たいふ)のおもと、そして下仕えの まろや という女の童にいたるまで「容姿がとても美しく、品もいいわ」と目をつけておいた侍女たちを、二条邸の侍女に訪ねさせた。

使いの者にはこう口々に言わせた。

「私は今、とっても勢いの良いお屋敷で働いておりますの。ご主人も、とても使用人をいたわってくれて、他にこんな素晴らしい屋敷はないわ。今お屋敷では人手がたりなくて女房を探しているのだけれど、こちらに来る気はない?」

まだ若い源中納言家の女房達は、今の主人が老い呆けてしまっていることを残念に思っていた。

『早くどこか他の屋敷を探さなくては』

と焦っていたところだったので、このようないい話を聞いて、

『今のご時世で、一番評判がいいお屋敷じゃないの!』

と思い、

「そちらに参りますわ。」

と話を引き受けた。

実家に里帰りするからと暇をもらい、これから仕えるのがあの落窪姫とは露知らず、またこうして源中納言邸を辞めていく女房達が同じ場所に集まろうとは夢にも思わずに、皆おのおのこのことを隠し、衛門の使いと段取りを決めていた。 

 

 

 * * * * *

 

 

やっぱり、女房達も源中納言家を辞めたいと思っていたようです。

これまでは「中納言」と、かなり良い家格に仕えていましたが、その屋台骨が呆けてゆがんでいるとなれば話は別です。

若くて才能も未来のある女房達は、若さと美しさがあるうちに新しい屋敷を探したくて急いでいる。

そんなときに、今一番の高嶺の花、衛門督のお屋敷から声がかかります。

このチャンスを逃す女房などいません。

衛門は自分の顔は出さずに、この女房の心理をうまく利用したようです。

 

女房だって人間ですから、情というものがあります。

主人が使用人を大事にさえしていれば、こんなにも簡単に辞めたりはしないのです。

主人が使用人を大事にさえしていれば・・・。


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