「何てことをするんだろう」
「今は、仕返しをしようにもどうしようもない。」
そうあれこれ言い合っていると、例の典薬助という馬鹿な老人が出てきた。
「何だって、あっちの思い通りにしてやらにゃならんのだ。」
とのこのこと衛門督一行に歩み寄ると、
「これ、今日のこの仕打ちを見ては、情けなくすっこんでなどいられんわい。杭を打った場所に車を停めたならまだしも、向かいに停めただけでこんな事をするのはどうしてだ。後の事を考えてやるんだな、そのうち仕返ししてやるからな!」
と言う。
衛門尉(帯刀)は「あいつが典薬助だな」と察して、「いつも、あいつをとっちめてやりたいと思っていたんだ。今日ここで出会えるとは、なんて嬉しいことだろう」と思う。
衛門督も「典薬助だ」と見て、
「惟成、何だってあいつに好き放題言わせておくんだね?」
と言うと、衛門尉も心得て、心がはやる雑色たちに目くばせをして、源中納言家の車に走り寄った。
「このじじいが『後の事を』と言いやがったぞ。我が殿に何をする気だ。」
そう言うと、長扇を振り回して典薬助の頭の冠を叩き落してしまった。
成人した男子は髪を結って冠をかぶり、髪を人目にさらさないもの。しかし、典薬助は冠が落ちて頭髪があらわになっていた。
その典薬助の頭と言ったら、結った髻(もとどり)は)塵ばかりしか残っておらず、額はつるりと禿げ上がって、これを見ていた人々は笑いに笑った。
典薬助が袖をかぶっておろおろと車に戻ろうとすると、衛門督の雑色たちが一足ずつ蹴った。
「『後の事』とは、何をする気だ、何をする気だ。」
そう言って、気が済むまでは続けた。
典薬助は気を失いかけて、息の音もしない。
衛門督は
「ああ、やめないか、やめないか」
と制止するふりをしている。
こっぴどく踏みつけられた典薬助を車に乗せて引っ張ると、源中納言家の男達は見ただけですっかり縮み上がってしまって、怖気づき震え上がって、車にも寄り付かない。
他人のふりをしながら、それでもそっと近くによると、他の小路に典薬助を引っ張ってきて、道に捨ててしまった。
そうしてようやく男たちが車に戻ってきて、轅(ながえ=車と牛をつなぐ棒)を持ち上げる様子が何とも気まずいものだった。
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正直、ここまでやるとドン引きですね。
典薬助が言っていることは、まぁ正しいと言えば正しいのですが・・・。
「典薬助が言っているから正しくない。」という不思議な理論が通ってしまったようです。
衛門尉も、愛する女君に手を出そうとした身の程知らずには情けも容赦もないんですね・・・。
この物語にしても徹底した仕返し、異論反論あったようですが、「結局は物語だし」と胸をスッとさせる人も多かったようです。
物語でくらい、理不尽だろうが何だろうが、現実にできないことをやらせたかったんでしょうね。
何せ原文も描写が細かく、かなり気合が入っていますから・・・。
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私信
長らく更新が滞りましたが、再開します。
またしばらくは定期的に更新したいと思いますので、お付き合いよろしくお願い致します。