中将は、春の司召(除目=任命式)で、他の人間をおさえて中納言になった。
蔵人の少将は中将になった。
大将は兼任で右大臣になった。
右大臣は、
「こうして子が生まれた時に、祖父も父親も昇進という喜びを得た。この子は幸せを呼ぶ子だ。」
と言って喜んだ。
新しい中納言は権勢は増して、天皇からの寵愛はましてただならず、華やいでいた。
しかも、中納言に昇進しただけでなく、衛門督(えもんのかみ=宮中を警備する衛門府の長)まで兼任することになった。
中の君の夫、新中将は宰相になった。
そして女君の父である古中納言の屋敷では、蔵人の少将が新中将に成り上がったのを知ると、三の君も北の方も
「どうして名残惜しんで、時々にすら来てくれないのか。」
とひどくねたみ憎んだが、そんな甲斐があるはずもなかった。
衛門督の帝からの寵愛はますます強まり、時流は思うままになるままにまかせて、女君の父である古中納言に何かにつけて侮り懲らしめることが多かったが、まぁそれは同じことのようなので書かない。
また次の年の秋、女君はまた美しい男の子を産んだ。
衛門督の母は、
「二条の御産屋には、美しく忙しくも子宝に恵まれることね。今回の子は、うちで預かるわ。乳母と一緒に迎えましょう。」
と言う。
ちなみに、帯刀は左衛門尉(さえもんのじょう=宮中警備)と蔵人をも兼ねていた。
女君は「このように、まるで絵に描いたように理想的に、幸せな日々を送っています」と父の中納言にまだ知られていないことを、飽きもせずに心配していた。
* * * * *
またしても昇進です!
整理しましょう。
落窪姫→二条邸の女君、二児の母
中将→中納言・衛門督を兼任
蔵人の少将→中将に昇進
大将→大将・右大臣を兼任
帯刀→左衛門尉・蔵人を兼任
中将が中納言に昇進しましたが、「中納言」だと女君の夫なのか父なのかわかりにくいので「衛門督」と呼びます。
実際、物語の中でも「衛門督」になっています。
新衛門督サイドは全員昇格、華々しいものですね。
いつかは書かれていませんが、帯刀もちゃんと昇進してました。妻の名前と同じ「衛門」です。よかったよかった。
そんな幸せいっぱいの新衛門督サイドに引き換え、女君の実家の中納言は、もう老いている上に帝の信頼も無いせいもあって変化はありません。
中将に昇進した蔵人の少将も、「手紙一枚やるもんか」という言葉どおり、きっぱり縁を切ってしまったようです。
新しい妻には嬉しいことですが、三の君には何とも情けないことでしょう。
女君の二人目の子供は、新衛門督の実家に引き取られたようですね。
どうやら、子供をより良い境遇で育てられるのであれば預けることも辞さなかったようです。
源氏物語に出てくる明石の姫君も、そんな理由で子の無い紫の上に預けられました。
ただし、今回の場合は単に新衛門督の母親が年を取って退屈したから孫を欲しがったように思えるのですが(笑)