一月の末日に吉日があったので、「寺にお参りに行くと運がよくなる」と、三、四の君や北の方などがひとつの牛車に乗って、忍んで清水寺に詣でに行った。

しかし折しも、三位中将も姫と一緒に清水寺に参詣に行く日だった。

中納言家の車は朝早くに屋敷を出たので、先を行っていた。お忍びなので先触れもなく、静かなものだった。

一方中将はといえば、夫婦で出かけるので先触れの従者も多く、前の者を追い散らして、堂々と勢いよく出かけた。

前の中納言の北の方たちの車は、後ろから先払いに追い立てられて困っていた。

松明の灯りで御簾の向こうの様子を見ると、人がたくさん乗っているせいで牛が苦しげで、登ることが出来ず、後ろの車たちはせき止められて行列がとどまりがちになってしまったので、雑色たちが苛立ち始めた。

中将が人を呼んで「誰の車だ」と問うと、「中納言さまの北の方が、お忍びで清水詣でに行くのです。」と言う。

さてこれを聞いた中将、ここで会ったが百年目と、 内心嬉しくて仕方がない。

「男たち、前の車に『早く行け』と言え。そうできないならば、道の端に引き寄せろ。」

中将がそう言うので、前を行く先触れたちが

「牛が弱いから、先に登れないだろう。端に引き寄せて、こっちの車を通してくれ。」

と言えば、中将は

「牛が弱いなら、面白の駒に引かせればいいじゃないか」

と言う。その声が非常に魅力的だった。

北の方は車の中でそれをかすかに聞いて、

「恥ずかしいこと。誰がこんなことを言うのだろう。」

とくやしがった。

 

 

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偶然にも同じ日の似たような時間に同じ場所にお出かけの北の方ご一行と中将&姫です。中将なんかは会えて喜んで(?)いますし、案外相性がいいのかもしれません。

しかし、車に何人も乗って一匹の弱い牛に引かせるのですから、中納言家の牛車は一向に進みません。普通に考えてもいい迷惑ですが、相手が中将とは知らないので、中納言家の意地が道を譲らせません。

中納言家の消したい過去、「面白の駒」でからかう中将ですが、さてそれだけで中将の虫がおさまるとは思えません・・・。