ところでそのころ、三の君の夫の蔵人の少将は中将の妹の中の君に求婚していた。

中将はここぞとばかりに

「蔵人の少将は良い人です。大君の女御のように帝の妻にする気がないのであれば、彼を婿に取ることをおすすめしますね。彼は見どころがありますから。」

と日々そう親に言い、蔵人の少将と中の君の結婚を薦めていた。

(あの北の方がこの蔵人の少将を宝のように大事にして、そのせいで私の姫はこき使われたんだな)と思うと、ますます蔵人の少将に三の君を捨てさせたくなってきた。

中将がこのように蔵人の少将をすすめるので、「見どころがあるひとなのだろう」と中将の両親は時々は手紙に返事を書かせていた。蔵人の少将はこちらに頼みをかけて、三の君からはただ離れに離れていった。

中納言邸では、以前は「素晴らしい出来だ」と褒めていた装束も、今は縫い目も歪んでみっともない出来のものばかりなので、ますます腹を立てて、仕立てたばかりの新品でも投げ捨ててしまっていた。

 

 

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中将が、蔵人の少将を中納言家から引き離しにかかっています。

中納言家で大事にしているものといったらこの蔵人の少将ですから、それすらも奪ってやろうというわけです。

本文には書いていませんが、おそらく中将も自分の妹のことをあれこれ吹き込んでいたのではないでしょうか。

どこまでも細かいところまでフォローするのが衛門(阿漕)。

どこまでも細かいところまで奪い尽くすのが中将(少将)。

悪のヒーローってこんな感じでしょうか?

 

ところで、こんな移り気な蔵人の少将を、大事な妹の婿に迎えてよいのでしょうか?

大丈夫です。どうやら少将の自慢の妹で、おそらく蔵人の少将の好みだからこそ縁談をすすめたとでしょうから(さすがの中将も、自分の妹を復讐の道具には使わないかと)。

しかも中将は今現在で一番勢いのある人ですから、あれこれもてなされるのが好きな蔵人の少将は離れていかないでしょう。

何より、もし理不尽な離婚をしたらあっけなくつぶされてしまうことが見えていますしね。