「右近の少将は容姿端麗、帝の寵愛も篤く、今すぐにも出世するだろうと誰もが口々に申しております。しかも、まだ奥様はいらっしゃらないのです。婿取りする立場として、これほど素晴らしい方がいらっしゃいますでしょうか。ここのご主人様も、なんとか右近の少将を婿にできないかと日々おっしゃっておいでです。北の方も急ぎに急いで、四の君の乳母の知り合いに左大将に仕えている人がいると知ってそれはもう喜ばれて、大騒ぎの果てに手紙を送られたようですわ。」

「おめでたいこと。それで?」
少納言の言葉に、姫はそう言って美しく微笑む。

その口元が灯の明かりに赤く映えて、見るものが恥らうほど気品があった。

「少納言、それで右近の少将は何と返事をなさったの?」

「存じませんが、『よろしいです』とでもおっしゃられたのでしょうか、屋敷の中では密かに結婚の準備が急がれております。」

この少納言の言葉に、少将は驚いた。少将はそんな返事をした覚えはない。

(嘘だ!)
そう言いたかったが、我慢して横になっていた。

「婿の数が増えると、姫様はまた針仕事が増えて大変になりますわねぇ。よい縁談がありましたら、一刻も早く結婚なさいまし。」
「まぁ、わたくしのような見苦しい女がどうしてその様なことを考えられましょう。」
「ご自分のことを、そのようにひどく言うなんて。何故そのようなことをおっしゃいますの。この屋敷で大事に育てられている方々よりも、かえって・・・」

そこまで言いかけて、少納言はぐっと口を閉ざした。仕える身の女房が、これ以上は言ってよいことではなかった。

「そういえば、私どもが美男だと騒いでおります方で弁の少将、世間の方は交野の少将と呼んでいるようですが・・・。」

そう言って少納言は別の話を切り出した。

「私の従姉妹がその弁の少将の屋敷で働いていまして、『少将』と呼ばれております。私がその従姉妹を訪ねた折、その弁の少将が私を中納言家に仕える女房と知って、わざわざ私に会いにいらっしゃいました。その容姿の優雅さといったらもう、他に類がないほどでございます。『中納言には姫君が多いと聞くが、どうなんだい?』とおっしゃって、大君を最初に順々に詳しくお尋ねになるので、お一人ずつ話して姫様の話もいたしますと、弁の少将は本当に気の毒がられて、『姫君は私の理想通りの方のようだ。必ずこの手紙を届けてくれ。』とおっしゃるので、私は正直に『申し上げたように、姫君はたくさんおられるのです。その姫は御母君がいらっしゃらず、心細げで、結婚などは考えもしていないようです』と申し上げたのです。」

すると弁の少将は、こう答えたという。

『その母君がいらっしゃらないのが、いっそう気の毒で愛情が勝るというものさ。私の理想の女性というのは「華やかではないけれど男女の愛をよく理解なさる方で、容姿の美しい方」だ。そんな姫君がいるなら、唐土、新羅まででも探そうと思うのだよ。今はこの屋敷にいる私の姉上の御息所(みやすどころ)様以外に、両親のいる女性でそんな理想通りの姫君なんかいないんでね。だからその姫がそんな居場所のないところで日々を過ごされるよりは、私だけの最愛の妻として姫君にふさわしい場所に住まわせてさしあげたいのだ。』

そのようにねんごろに、夜が更けるまで話したのだという。
「その後も、『あの姫の件はどうなった。お手紙を差し上げようか』と気にかけていらっしゃいましたが、『折が悪うございます。そのうちお目にかけましょう』と申し上げておきました。」

そう少納言に言われるが、姫は返事ができないでいる。

すると、曹司(ぞうし、少納言の部屋のこと)から使いが来て、

「急用で申し上げることがございます」

と言うので、少納言は落窪から出た。

「人が訪ねていらっしゃいました。早くお出になってください。お伝えすることがあるのです。」

「ちょっと待ってちょうだい、姫様にお話申し上げるから。」

そう言って少納言はまた落窪に戻ってきた。

「姫様のお相手をしたいと思っていたのに、急用だと使いが来てしまいましたので、これで下がらせていただきます。弁の少将との結婚のことで、お話したいことがまだまだたくさんあります。心躍る話でございますよ。いずれ事細かにお話しましょうね。それから、北の方に私が部屋に戻ったこと、内緒にしていただけませんか?北の方が聞いたら、驚いて私を責めるでしょうから。機会があったら、また伺いますね。」

少納言はそう言って部屋から出て行った。
 
 

 * * * * *

 

 

少将が多いですね。整理しましょう。

右近の少将・・・落窪姫の夫、この話のヒーロー?

蔵人の少将・・・三の君の夫、この人の縫い物で落窪姫は忙しい。

弁の少将・・・別名「交野の少将」、世間の色男。

それに加えて少納言の従姉妹で弁の少将の家で働く女房も「少将」です。


女性を少納言や少将と呼ぶのは妙な気がするかも知れませんが、女性の呼び名は自分の一族の中で一番高い身分の人の官職名をもらうことになるのでそう呼ばれるのです。

紫式部は式部大丞の娘、清少納言も少納言の娘ですね。

その人自身が偉くなくても、その人の血縁が偉ければ高貴な人、という時代です。

その人の一族が、どれほど栄えているのか知ることは大事なことでした。


それにしても、少納言の話が長い!

いちおう分けましたが、「そういえば~申し上げておきました。」まで全部、姫の返事なしに少納言の言葉が続きます。
さて落窪姫、弁の少将に求婚されるのでしょうか?


↓またニキビができちゃいました・・・。

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