(前回からの続き)
手術は成功し、石膏ではなくFRPのような軽い素材のギプスで固定されて、退院となった。
2~3週間後には再入院し、リハビリをやるとのことだった。
8月のお盆過ぎに再入院。
病室もベッドも同じだった。
入院患者さんはほとんど退院していたけど、神経質なKさんがまだいたのには、辟易した(^^ゞ
ギプスがとかれた後、軽く固定して看護師さんに車椅子を押されて、リハビリテーションに行った。
出迎えてくれたのは、今となっては名前が思い出せないので、理学療法士のAさんとBさんにしとこう。
Aさんは、いかにもスポーツマンタイプって感じの人だった。Bさんは、物静かで今でいうと「オタク系」でムスッとしていて愛想がない(^^ゞ
このお二方がボクの面倒を見てくれることになった。
A先生が付き添ってくれて、お湯が張ってあるバケツのような容器に足を入れて、足首を動かすことから始まった。
たった2~3週間と言えど、ギプスで固定されていた右足の太ももは、動かすことができないからものすごく細くなっていた。確か、太ももは60センチ以上あったが、このとき40センチ程度しかなく、割り箸みたいに細くなっていた。
されに、3週間弱固定されていた足首は、不思議なことになかなか動かない。
何十分かすると、ようやく解れてきて、少しずつ動くようになった。
A先生が、「焦らなくていいよ。最初はみんなこんな感じだから」と言われるものの、冷や汗びっしょり(^^ゞ
するとA先生が、「よし、じゃあ足首のリハビリは終了ね。あとは、B先生の方で筋トレね」と言う。
ん?筋トレ?
A先生が「主治医のS先生から話は聞いている。『ラグビー、すぐ出来るようにしてくれ』って」
「なるほどー、そういうことかー。主治医のS先生、わかってるなー」って思ったのも束の間だった。
この理学療法士のB先生っていうのが、超が付くほどドSだった(^^ゞ
与えられたメニューは、ラグビーの筋トレに匹敵するくらいのものだった、しかも初日から・・・。
足首に影響のない、腹筋・背筋・腕立て・片足スクワットをやらされた。
次の日も同じで、回数が増えたと思った。
若気の至り、いや、ガキの至らなさで、不満が顔に出てしまった。
すると、B先生がこう尋ねて来た。
B先生「お前、〇〇高校でラグビーやっているんだよなー。朝練とかもあれば、放課後の練習もあるんだよな?」
ボク「もちろん。朝練の時は6時半頃の東海道線に乗らなきゃいけないんです」
B先生「すると、お前は朝6時前に起きなきゃいけないよなー?ってことは弁当作ってくれるお母さんは何時に起きているんだ?
そもそもお前が通っている〇〇高校って私立だよなー、親に高い授業料を払ってもらっているんだろ!?オレはお前みたいなスネかじりで傍若無人のような自分勝手な奴は大嫌いなんだよ!
お前、このリハ室を見渡してみろ!
あそこにいる女の人は、車椅子から降りることもままならないんだぞ!手すりにつかまっているあの男の人は自分の足で立って歩きたい、その一心で何か月もかかってようやくこの状態まで来たんだ!お前、甘ったれるなよ!」
と怒鳴られて、今日のリハは中止を告げられた。
不貞腐れながらエレベーターに乗って病室に戻るときに、ナースステーションの前を通ったら、がらっぱちの看護師・Eさんが話しかけてきた。
「あれ?今日はもう終わったの?」
「うん、B先生が・・・」と言いかけると、Eさんはニヤッと笑って「もしかして怒られて終わりになった?」と言ってきた。
「えー?なんでわかるの?っていうか、あの人なんなんだよ、一体!?」
「B先生はねー、学生時代に柔道の選手だったのよ。それも、オリンピック候補になるくらいの選手だったんだけど、膝だったかなー、怪我で引退する羽目になっちゃってねー」
「うそ~!?全然、そんなふうに見えないよー。髪の毛だってボサボサで長いし、静かな感じだしさー」
「みーんなあの見かけに騙されるのよ(笑)。〇〇クン(ボクの名前)もB先生の洗礼を受けたんだー、頑張れよ~」と、励まされた(^^ゞ
ベッドで突っ伏して、空っぽのアタマであれこれと考え始めた。
「確かに朝練の時、起きたら弁当は出来上がっていて、それを鞄に詰めて朝6時半の電車に乗って行く。親父の帰りが遅いのに、母ちゃん、何時に起きて弁当作ってくれているんだろう?」
「当たり前のように学校に行っているけど、B先生が言うようにオレが通っているのは県立高校ではなく私立高校だもんなー。県内の私立高校の中では一番授業料は安いけど、それなりのお金がかかるもんなー」
「そういえば1学期の3者面談で成績がクラスでビリから3番目だった。授業料払ってもらっているのに、それはないよなー」
「顧問のY先生がよく、『周りをよく見ろ。仲間を信じろ』『練習が辛くてもヘラヘラしろ。笑ってろ!辛い顔で辛い練習すれば、もっとシンドくなるぞ』言ってたなー」
それで出した結論は、
「治ることを信じて、前だけ向いて頑張る!」ってことだった。
続く
