前回のエントリ
から、「行動を減らす」ということについてのお話が始まりました。
前回は「犬を叱る」という対応に、どんな問題とリスクがあるのかということを、お伝えしています。
これは、「犬を叱る」という対応は、「行動を減らそうとする行為」にほかならないため、まずはそのリスクと問題点について触れました。
あれだけのリスクと問題点があるわけですから、単純に「犬を叱りましょう」という対応は、出来る限り避けるべきというのが、基本的な考え方です。
でも、「叱る以外に行動を減らす方法はあるのか?」という疑問が出てきますね。
そこで、いくつかの「叱る以外に、特定の行動を減らす方法」というものを、お伝えしていこうと思います。
・消去
例:無視をする
まず最初に思いつくのは、この「消去」です。
いわゆる「要求吠え」などでは、この方法が使われることが多いですね。
↓の流れを見てください。
構ってもらっていない→吠える→構ってもらっていない
この流れを見ると、行動の前後で環境の変化がありません。※1
簡単にいえば「どれだけ吠えても、構ってもらえない状況は変わらない」ということになります。
このように、「どれだけ頑張っても無駄」という状況になると、どんな動物でもその行動をやめてしまいます。
つまり、行動が消去されるので、「消去」と呼びます。
ただし、この「消去」には一つ大きな注意点があります。
それが「消去バースト」と呼ばれる現象です。
消去バーストというのは、行動が消去の流れに乗ると、一度爆発的に増加する現象のことを指します。
つまり、「行動が消えてなくなる前に、一旦ひどくなる」わけですね。
よく、「要求吠えには無視をしましょう」というアドバイスを実践したら、「かえってひどくなったので、やめてしまった」という話を聞いたことはないでしょうか?
それは、この「消去バースト」が起こったのだろうと考えられます。
本やネットの掲示板では、「無視をしましょう」という対応は割とポピュラーになってきましたが、この「消去バースト」については触れられていないことが多く、これを知らないまま無視を開始してしまい、「なくなるって聞いたけど、むしろひどくなってるじゃないか」と、途中でやめてしまうことが多いようです。
もしもあなたが、これまでに無視をしたのに、かえってひどくなってしまったのでやめてしまったとしたら、それはこの「消去バースト」のせいかもしれません。
まずは、「行動を減らす対応」の一つ目、消去でした。
今後、いくつかの対応をお伝えしていきます。※2
お楽しみに。
※1
時々「消去=無視」と解説しているプロを見かけますが、それは違います。
あくまで「行動の前後に変化がなく、その行動を維持している強化子が提示されない随伴性」のことを、「消去」と呼びますので、たとえば↓のような場合での「無視」は、消去でもなんでもありません。
他犬が来る→吠える→他犬が去る
このように、「他犬が去る」という環境の変化がある状況で、飼い主さんがどれだけ「無視」をしても、なんの意味もありません。
また、↓のような流れは「行動の前後に変化がない」ということで、「消去」になります。
仰向けにされている→唸る→仰向けにされている
「どれだけ唸っても、仰向けにされ続ける」ということになるので、これは「消去」です。
当然、「消去バースト」が起こる可能性もあります。
意地になって続けていると、余計に唸って、場合によっては「噛んでくる」ということが起こるかもしれません。
犬を無理矢理仰向けにするという対応は、この観点からオススメしません。
というか、仰向けにしたところで信頼関係は築けませんし(無理矢理仰向けにしてくる人を、信頼できますか?)、反省もしてくれませんし、はっきり言ってほとんど効果はありません。
これは、マズルコントロールやホールディング(またはホールドスチール)も、同様と考えられます。
時間とエネルギーの無駄ですので、やめましょう。
※2
「犬を叱りましょう」ということを、簡単にアドバイスする人が多すぎると感じているので、このようなシリーズ記事を書くことにしました。
これは、プロにも多いと思います。
でも、単純に「そんなやり方はダメだ」と言うのでは筋が悪いので、「他にこんなにもバリエーションがあるんですよ」ということを、お伝えしていこうと思います。