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Altusによって、ウィーン・フィル・アーカイブの正規音源蔵出しオリジナルテープから、295セット完全限定プレスでLP化された。レコードの良さが多くの人々に再認識されてから、フルトヴェングラーのLPボックスが出たのは、3つ目となる。auditeからはRIAS音源、Tahraからはヨーロッパ各地の放送音源がLP化された。そしてAltusからは、ウィーンフィルのアーカイブからの音源によるレコード化である。

元々は、高い技術を持っていた連合国オーストリア進駐軍放送、つまり、ORFの前身である赤白赤放送集団によって、ウィーン楽友協会大ホールで収録されたライブ録音である。ウィーン・フィルのアーカイヴに厳重保管されているオリジナルマスターテープを使ったという。

LP 1-2
・ベートーヴェン:交響曲第9番ニ短調 Op.125『合唱』

イルムガルト・ゼーフリート(ソプラノ)
ロゼッテ・アンダイ(アルト)
アントン・デルモータ(テノール)
パウル・シェフラー(バリトン)
ウィーン楽友協会合唱団
ライヴ録音:1953年5月30日

LP 3-4
・ベートーヴェン:交響曲第3番変ホ長調 Op.55『英雄』
ライヴ録音:1952年11月30日

LP 5
・ブラームス:交響曲第1番ハ短調 Op.68
ライヴ録音:1952年1月27日

LP 6
・ブラームス:ヴァイオリン、チェロとオーケストラのための二重協奏曲イ短調 Op.102

ヴィリー・ボスコフスキー(ヴァイオリン)
エマヌエル・ブラベッツ(チェロ)
ライヴ録音:1952年1月27日

LP 7
・ブラームス:ハイドンの主題による変奏曲 Op.56a
ライヴ録音:1952年1月27日

・マーラー:さすらう若者の歌

アルフレード・ペル(バリトン)
ライヴ録音:1952年11月30日

ヴィルヘルム・フルトヴェングラー指揮
ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団


以上の収録曲を演奏会毎に整理すると、3回分のコンサートの内、ベートーヴェンの交響曲第1番を除いた全てが収められていることが分かる。収められなかった交響曲第1番は、独フ協会 F 669. 056/7(2LP)で聴くことができる。このAltusボックスに収められている『第九』と同じ録音がこの協会盤に入っており、良質の音源であるにもかかわらず、たった一曲だけがボックスから除外されたのはいかにも不思議である。

●1952年1月27日
・ブラームス:ハイドンの主題による変奏曲 Op. 56a
・ブラームス:ヴァイオリン、チェロとオーケストラのための二重協奏曲イ短調 Op.102
・ブラームス:交響曲第1番ハ短調 Op.68

●1952年11月30日
・ベートーヴェン:交響曲第1番ハ長調 Op. 21(LPセット未収録)
・マーラー:さすらう若者の歌
・ベートーヴェン:交響曲第3番変ホ長調 Op. 55『英雄』

●1953年5月30日
・ベートーヴェン:交響曲第9番ニ短調 Op. 125『合唱』

これらの中で、『英雄』だけは初めてのLP化である。CDはTahraとAltusから発売された。3曲のブラームスが1980年代頃にようやく日の目を見てEMIからLP化されたので、元々、これらの音源は余り注目されず、各レコード会社が積極的にレコード化しようとしなかったのかもしれない。フルトヴェングラーとウィーンフィルの組み合わせでは、戦後にスタジオ録音がかなりたくさん残されたのに対して、ライブ音源については良い音源が実は余り残っていないということは、余り知られていないようだ。確かに、ウィーンフィルが毎年出演しているザルツブルグの音源がいくらかあるものの、残念ながら状態が良くない音源がほとんどなので、良質なウィーンフィルのライブ音源をまとめて聴くことができるAltusのボックスは貴重である。

『英雄』を2枚にたっぷりとカッティングすることで、第2楽章を中断することを避けていることから分かる通り、つくり自体はとても丁寧である。しかしながら、実際はほとんど間を置かずに演奏したと思われる第3楽章と第4楽章を同じ面に収めなかったのは、演奏者の視点から見ると問題だと思う。さらに、音質面にも問題がある。このレコードの再生音は、マスターテープからのダイレクトな聞こえ方ではなく、音の抜けの良さが今ひとつで、ホールの空間が再現されるオールドメロディアで楽しめるフルトヴェングラーのようなアナログならではの生々しさが感じられない。例えば、独フ協会盤で聴く『第九』のような目の前でオーケストラが演奏しているかのような臨場感が無い。AltusのLPでは、恐らく音を過度にいじったテープを使っていて、もう少しステージから離れた座席で聴いているかのように聞こえる。

全体的には、フルトヴェングラーを迎えて、ウィーンフィルがいつもよりも力強い音で演奏しているのが分かりやすいし、実際に聴くウィーンフィルの聞こえ方に近い。その一方で、音割れを目立たなくしたり、やや低音を強調して全体の音のバランスを整え、管楽器についてはオーボエを中心にまとめ上げたかのように聞こえるのから、やや人工的な感じを受ける。ディジタルリマスターされた音源を元に作られたかのようにさえ思う。それでも、録音状態が決して悪くはないので、今では入手が難しくなった独フ協会やEMIのレコードを知らなければ、満足できる音かもしれない。

Altusのボックスには、『ウィーン・フィル 戦後の試練 ― フリッツ・セドラックをめぐって』という紺戸 淳氏による大変見事な解説が収められている。それによると、1938年3月のヒトラーによるオーストリア併合の後、ウィーンフィルに対して当局から通達された解散と財産の没収に対して、フルトヴェングラーが尽力してこの決定を取り消させたり、楽団員全員の兵役の免除を獲得したりしたという。さらには、フルトヴェングラーが当局と交渉して、次のような重大事項を認めさせるに至ったという。

「ユダヤ人との混血、あるいは婚姻関係にある9人の団員の当局の通達による解雇、追放を阻止し、「特別許可」の団員としてオーケストラに残留させる、というもので、この許可を得た中には、セクション内では他に替えがたい奏者、モラヴェッツ(ヴィオラ)、クロチャック(チェロ)、フライベルク(ホルン)といった、後世にその名を残す人々が多く含まれていたのである。」

終戦直後に占領軍によって度々もたらされた、ウィーン・フィルの高度な演奏水準を維持するのが困難になる危機を救ったのが、楽団長とコンサートマスターとして活躍したセドラックであり、フルトヴェングラーとセドラックの働き無しに現在のウィーンフィルはあり得ないという。この解説を読むと、大戦中にフルトヴェングラーがウィーンフィルと録音したベートーヴェンの『田園』、ブラームスの『ハイドン変奏曲』、『ウラニアのエロイカ』、ブルックナーの交響曲第8番が、いかに貴重な音楽的財産かと思える。

・audite Edition Wilhelm Furtwängler – RIAS recordings with the Berlin Philharmonic on 14 LPs(audite 87.101)
・Tahra 「フルトヴェングラー名演集」KKC-1030(7LP BOX)
・Altus 「フルトヴェングラー&ウィーン・フィル 戦後ライヴ集1952~53年」(ALTLP-035 7LP)

結局、ファンの間で強い関心を集めた3つのボックスの内、私が完全に満足できたのはauditeのセットだけである。元々のテープの状態が良いので最小限の調整だけで済んだのだろう。まるでティタニア・パラストでライブを、今まさに聴いているかのような再生音が素晴らしい。他のボックスの制作者達は、このauditeの圧倒的な素晴らしい音に近づけようとした結果、多くのレコード・コレクターを魅了しているアナログ音の感動を奪い去ったかのように思える。Altusが出した「ムラヴィンスキー 伝説の初来日東京ライヴ」(ALTLP-091/3 3LP)の再生音は確かに素晴らしいだけに、とても残念に思う。

数少ない良質な録音のウィーン・ライブを聴くには次の3アイテムがベストである。不思議なことに、CDになると音の良さが失われて迫力や生々しさが後退してしまったので、これらのレコードの役割は極めて大きい。

‘肇婉┣ F 669. 056/7(2LP)
・ベートーヴェン:交響曲第1番ハ長調 Op. 21 (1952年11月30日 ウィーン楽友協会大ホールでのライブ)
・ベートーヴェン:交響曲第9番ニ短調 Op. 125『合唱』(1953年5月30日 ウィーン楽友協会大ホールでのライブ)
東芝EMI WF-60021
・ブラームス:ヴァイオリンとチェロのための二重協奏曲(1952年1月27日 ウィーン楽友協会大ホールでのライブ)
・ブラームス:ハイドンの主題による変奏曲(1952年1月27日 ウィーン楽友協会大ホールでのライブ)
JPathe Marconi EMI 2701241
・ブラームス:交響曲第1番(1952年1月27日 ウィーン楽友協会大ホールでのライブ)

この中には滅多に市場に出なくなったのもあるが、フルトヴェングラーとウィーンフィルによる楽友協会でのライブを楽しむのに最良のレコードは、これらの3点である。


写真:
´Altus 「フルトヴェングラー&ウィーン・フィル 戦後ライヴ集1952~53年」(ALTLP-035 7LP)